ども、杉野です。

いやー、筆が進むのはいいんですが、ニャポレオンの終わりが
まったく見えてきません(苦笑)

こんなことになるなら、最初からもっと色々伏線やら仕込んで
おけばよかったと、若干後悔しています。

そんなワケで、そのうち最初の1・2話辺りをリニューアルする
かもしれません(と言っても、話が変わらない程度に、ですが)。

もちろんそのときはちゃんとお知らせしますので、ご心配なく。

ではでは、本編をどうぞ。

 

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第25号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(9)

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・・・2ヶ月と11日目・・・

ゲンさんの喝でやる気を取り戻した鉄平は、この日の朝、レオン様に
もう一度リサーチの話を切り出した。

「あのさ、昨日話そうと思ってたことなんだけど」

「なんだ」

「リサーチの話」

「うむ」

「考えたこと、聞いてもらってもいい?」

「申してみよ」

「リサーチとは、相手のことをよく理解することであり、それと同時に
自分のことをよく理解することだと思う」

「理解するとは、コミュニケーションの文脈では、その人の立場を
想像することができる、もしくは客観的にその人を見ることができる、
みたいな意味」

「まとめると、リサーチっていうのは自分や相手を第三者的視点から
観察して、そこから何かその人の核となっているようなものを見つけて
いくことなんじゃないかな、って思ったんだけど、どう?」

「鉄平にしてはよく考えたではないか」

「へへっ、そう?」

鉄平は少し照れくさそうにしている。

「ところで、それはどうやってやるのだ?」

「それは・・・まだ考えられてないんだ」

「そうか、今まで私は何度も言っておるのだが、お前はそれに気付いて
おらぬようだな」

「え、そんなの一度も教わってないって」

「そう思うなら自分で考えればよい」

「そんなぁ・・・」

「その過程でまた一歩ホンモノに近づくのだから、よいではないか」

「そうかもしれないけどさぁ・・・レオン様ってなんか僕に遠回り
ばっかりさせてない?」

「なんだ、今ごろ気が付いたのか」

「じゃあ2ヶ月以上経っても何も進展しないのは、レオン様のせい
ってこと?」

「理屈上はそういうことになるな」

「暇つぶしは長く続くに越したことはない」

それを聞いて、鉄平の態度が急変した。

「なんだよそれ・・・なんなんだよ、昨日から・・・」

「そう落ち込むな、私も昔は師匠に」

「昔話なんてどうでもいいよっ!」

「どうした、怒っておるのか?」

「やれやれ、またお前は勘違いしておるようだな」

「その言葉は聞き飽きたよ」

「昨日だってそう言って、僕の気持ちも考えずに自分の言いたいことを
言ってただけじゃないか!」

「いいから聞かぬか」

「・・・もうこれ以上アンタの暇つぶしに付き合うつもりはないから」

「何を言い出す」

「止めても無駄だよ」

「昨日の時点で僕の心は決まってたんだ、アンタみたいなダラシナイ
猫じゃなくて、あの人(あの猫)についていこう、って」

「誰がダラシナイ猫だっ!」

「本当のことを言って何が悪いんだよ!」

鉄平の言葉に一瞬激情したレオン様だったが、次の瞬間には落ち着きを
取り戻し、冷静な声で鉄平に語りかけた。

「お前の言いたいことは分かった、ではこれからどうするのだ」

「そんなのアンタには関係ないだろ」

「それは私との約束を破るということか」

「そうだよ」

「こんなのやってられるワケないだろ」

しばらく沈黙が続いたあと、レオン様が口を開いた。

「・・・分かった」

「また私も暇になってしまうな」

鉄平は何も言わない。

「短い間だったが、それなりに楽しい暇つぶしになった」

「いい師に出会えるとよいな」

そう言い残して、レオン様は部屋を去っていった。

 

昼食後、鉄平は早速ゲンさんに会いに行った。

もちろん弟子にしてもらうためだ。

いつもの場所で何度か名前を呼んでみたが、ゲンさんは現れない。

「なんでこういう時に限って出てこないんだよぉ・・・」

実はゲンさんは近くにいたのだが、彼は鉄平の様子を察してあえて姿を
現さなかった。

あの表情、あの焦り具合、あの雰囲気、そして昨日の今日。

それらを勘案した結果、ゲンさんは会うべきでないと判断した。

鉄平はまったく気付いていなかったが、ゲンさんは鉄平が思っている
何十倍・何百倍も凄い実力者だったのだ。

ここで読者諸君には前にレオン様が言っていたことを思い出してほしい。

彼は鉄平にこんなことを言っていた。

「お前のような愚民には分からんだろうが、ホンモノの成功者ほど
実は裏でひっそり目立たずに世界を動かしているものなのだ」

これはそのままゲンさんに当てはまる。

忘れていないだろうか。

鉄平から見ればちょっと変わった粋で小太りな猫でしかないゲンさんも、
あのレオン様の師匠なのだということを。

ホンモノであればあるほど、自分のことを小さく見せようとする。

彼らは目立つことがリスクであることを理解しているがゆえに、
どこにでもいる平凡な猫(人間)を演じる。

そう思われている方が、何かと都合がいいのだ。

豪邸に住めば強盗に狙われ、年収を公にすれば多くの人に妬まれる。

顔が知れ渡ればプライバシーは侵害され、下手に賢いところを見せれば
相手に警戒されかねない。

だから彼らは「裏でひっそりと目立たずに」生きているのである。

ゲンさんがどの程度ホンモノなのかは、追々知ることになるだろう。

話を戻そう。

鉄平ががっかりしながらその場をウロウロしていると、突然、
彼の携帯電話が鳴った。

ピピピッ、ピピピッ(着信音)

「メールかぁ」

「え、寺田!?」

※久々の登場なのでお忘れかもしれないが、寺田は鉄平がかつて
勤めていた会社の同僚である。

「なんで寺田が急に???」

ピッ(メール確認)

そのメールにはこう書かれていた。

<うっす、久しぶり!ちょっと急なんだけど、今日の夜時間あるか?
もし暇だったら久々に飲まないか?あ、飲み代は俺のおごりで
いいからさ、その理由も含めて色々話したいことがあるんだよ、
よかったら連絡ちょうだい>

「なんなんだろ、急に」

「このタイミングでこのメールって・・・偶然とは思えないな」

「まあ今日はゲンさんもいないみたいだし、弟子入りは明日にして
久々に息抜きでもするかぁ」

<おう、行こう行こう!じゃあ6時半にいつもの居酒屋で!>

鉄平はそう返信した。

 

夕方、鉄平がいつもの居酒屋で待っていると、以前よりも随分と
派手な格好をした寺田が現れた。

「よっ!久しぶり!」

そう声をかけてきた寺田の顔は、気持ち悪いほど満面の笑みだった。

「お、おう」

鉄平は寺田の変わり様に少し動揺している。

「な、なんか変わったな」

「そうか?」

「派手になったっていうか、ギラギラしてるっていうか」

「まあ俺もいろいろあってね」

「何があったの?」

「そう焦りなさんなって」

「今日は全部俺がおごるから、ゆっくり話そうぜ」

ウエイターがやってくる。

「ご注文はお決まりですか?」

「あ、生中2つとタコワサ、あとサイコロステーキね」

「生中でよかったよな?」

「う、うん」

「オーダー入りまーす!生中2つと(以下略)」

「ところで篠原は最近どうしてたんだ?」

「最近かぁ・・・」

鉄平は少し迷ったが、レオン様のことを打ち明けることにした。

「前に話した猫の話、覚えてる?」

「まあ一応」

「ここだけの話なんだけど、これこれしかじか、ってことでその猫に
ホンモノになる方法を教わってたんだ」

「へー」

「あれ、前みたいに『寝ぼけるな』とか言わないの?」

「言わないねぇ」

寺田は不気味な笑みを浮かべている。

「なぜなら俺も今、猫にいろいろ教わってるからね」

「ええぇっ!!!!!!!!!」

鉄平はあまりの驚きに大声を出さずにはいられなかった。

「しぃーーーー!お前声デカイよ、周りが見てんじゃねーか」

「あ、う、うん、ご、ごめん」

「それって、どういうこと?」

「どういうことも何も言葉通りだよ」

「え、じゃあその猫の名前は?もしかして・・・レオン様?」

「はぁ?レオン様って誰?俺の師匠はニャタリーだよ」

「ニャタリー?」

「そう、正式な名前は忘れたけど、たしか、なんとかかんとか
ニャタリー・ヒルって名前だったと思う」

それを聞いて鉄平は少しほっとした。

「そ、そうか、なるほど」

「で、寺田はそのニャタリーに何を教わってるの?」

「そりゃー、この格好を見ればなんとなく分かるでしょ」

「・・・お金?」

「グッドラック!」

「グッドラック?」

「正解ってことだよ」

「それを言うなら、ザッツライト、だろ」

「まあ細かいことは気にしない」

「相変わらず言葉のチョイスが独特だな・・・まあいいや」

「そのニャタリーにお金の稼ぎ方を教えてもらったことで、
そんな格好ができるようになった、と」

「そういうこと?」

「イェス、ウィーキャン!」

「ウィーキャンは余計だって」

 

「それで、なんで僕にその話をしにきたの?」

「あ、そうだった、それを言わなきゃな」

「うん」

「いや、話は簡単なんだよ」

「お前もニャタリーに弟子入りしないか、ってことだ」

「僕が?」

「そう」

「そりゃ願ってもない話だけど、なんでそんなオイシイ話を
わざわざ僕に持ってきたのさ」

「そういうこと誘う相手だったらもっと他にたくさんいるだろ」

「お前さぁ、猫が喋るなんて、誰に言っても信じてもらえると思うか?」

「あぁ、なるほど、そういうことね」

「いくらお金があっても、周りから白い目で見られたら悲しいだろ」

「だから前に猫の話をしてたことを思い出して、お前にこの話を
振ったんだよ」

「そこは分かったけど、別にそのことを寺田一人で独り占めしておいても
よかったんじゃないの?」

「うっ、そ、それは・・・そうなんだけど」

「僕を誘わなきゃいけない理由でもあるの?」

「そ、そんな細かいことは、どうでもいいじゃん」

寺田の目が泳ぎ出した。

「だって、ほ、ほら、たった2ヶ月やそこらでこんなブランドの服とか
時計が買えるぐらいお金が手に入るんだぜ?」

「それのどこに断る理由があるんだよ」

「まあそうだけどさ、普通は気になるじゃん」

「逆だよ逆、普通は気にしないって」

「そうかなぁ」

「そうそう」

「でも・・・実は他に弟子入りしたい猫がいるんだよ」

「なんだよ、その猫って」

「ゲンさん」

「ゲンさん?なんだそりゃ、大工の棟梁かなんかか?」

「違うよ、ゲンさんは・・・あれ、ゲンさんって何者なんだっけ?」

「お前、何者か分からないヤツの弟子になるつもりなのか?」

「いや、ゲンさんは・・・」

「なんか知らないけどさ、そんな得体の知れないヤツの弟子になるより、
ちゃんと実績のあるニャタリーの弟子になった方が絶対いいって」

「うーん」

「よし、じゃあ明日俺がニャタリーに会わせてやるよ」

「え、いいよ、そんなの」

「遠慮すんなって、お前もニャタリーに直接会えば絶対に弟子入り
したくなるから」

「そうかなぁ・・・でも僕はゲンさんに・・・」

「じゃあ明日の昼1時半にホテルニャポレオン東京で待ち合わせな!」

「ホテル?」

「あんまり人目につくとマズイだろ」

「あぁ、そうか」

「金はこっちで持つから気にすんな」

「う、うん・・・いや、でも」

「そうと決まったらパーっと飲もうぜ!!」

 

結局、鉄平は寺田の誘いを断り切れず、ニャタリーに会うことに
なってしまった。

一方その頃レオン様は次の暇つぶし相手を既に見つけていたのだが、
それはまだ先の話。

鉄平はゲンさんの弟子になれるのか、それともこの流れのまま
寺田と共にニャタリーの弟子になってしまうのか。

鉄平の運命やいかに。

つづく。

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