【第4号】猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(2)

No Comments

ども、杉野です。

今回はニャポレオン・ヒルの第2話目です。

物語の構成や流れが下手なのは自覚していますが、今のところ
書くのが楽しいので、まだ続けると思います。

ウザければ

info●philosophia-style.com

まで「ウザイ」と送ってください。

無視しますので(笑)

「やりたいことをやれ」って言ってる本人が、やりたいことをやって
なかったら説得力ないですからね。

僕は僕でやりたいことをやります。

もちろん“あなたの役に立つカタチで”ね。

ちなみに今回のレオン様もかなり重要なことを言います。

サラッと読み流さないように注意してくださいませ。

それでは、本編をどうぞ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第4号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(2)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

社員が全員そろったところで、突然、社長が大きな声を出した。

「みんなに大事な話がある」

静まりかえる社内。

みんな社長の方を振り向く。

「実は今、ある企業から莫大な損害賠償を求められている」

「損害賠償!?」(全員)

ざわつく社内。

「私のチームの一人がその企業のページで商品の価格を誤って表記して
しまったことが原因だ」

「誰のミスなんですか?」

篠原の先輩の佐々木が質問する。

「いや、誰がやったとか、何があったとか、もはやそういう問題では
ないんだ」

「どういうことですか?」

「うちの会社は、もう、おしまいなんだ・・・」

「それじゃ分かりませんよ、どういうことなんですか、はっきり言って
下さいよ」

「とてもうちの会社に支払える額じゃないんだよ、賠償金が」

「一体いくらなんですか?」

「聞いても仕方ないだろ、そんなこと・・・」

「聞かなきゃ納得いかないですよ!」

「ふぅ・・・」

社長はため息をついたあと、口を開いた。

「5億だよ」

「5億!?」

社員全員が驚く。

「分かるだろうが、その金額はうちの年商の約10倍だ」

「うちのような弱小企業に、そんな賠償金を支払う力はない」

社員の一人が思わず声をだす。

「え、じゃあ、これから会社はどうなるんですか?」

社長は声のトーンを落としながら答える。

「その件については、みんなが想像している通りだ」

「うちの会社は、今日をもって・・・倒産とする」

社員たちは動揺を隠せない。

「本当にみんなには申し訳ないことをしたと思っている」

「だが幸い、倒産による失業の場合は、雇用保険がすぐにおりる」

「給料3カ月分満額というワケにはいかんだろうが、生活できるぐらいは
もらえるはずだ」

「その間になんとか次の職を見つけてほしい」

「もちろん会社の後処理は、私が責任を持っておこなう」

「もうこれ以上、みんなには迷惑をかけられない・・・」

すると寺田が声を出した。

「じゃあもう帰っていいですか?」

みんな、信じられない、という顔で彼を見ている。

「・・・あぁ」

社長が弱々しく答える。

最初はみんな戸惑っていたが、寺田が帰るのをキッカケに他の社員も
ぞろぞろと帰り始めた。

帰りがけに寺田が鉄平に声をかける。

「お前は帰らないのか?」

「うん、ちょっと社長と話がしたくて」

「ふーん」

「じゃあ俺は先に帰るわ、また何かあったら連絡してくれよ」

「あぁ、わかった、いろいろ、ありがとな」

「おう」

会社に残ったのは鉄平と社長だけになった。

社長は頭をさげ、うなだれている。

「社長、ちょっとだけ、お話聞いてもいいですか?」

「なんだ」

「社長はどうしてこの会社の社長になろうと思ったんですか?」

「俺は・・・別に社長になりたくてなったワケじゃないんだ」

「この会社の立ち上げ当初、ここには俺を含め4人の役員がいた」

「俺はそいつらと一緒にこの会社を立ち上げたが、最初、俺の役職は
取締役で、社長は別のヤツだったんだ」

「けれども、社員が1人増え2人増え会社の仕事が増えていくうちに、
役員同士のコミュニケーションが希薄になっていった」

「それでもしばらくは無事に会社も回っていたが、気付いた時には
役員はみんなそれぞれのやり方や方針で仕事をやっていて、それを
統合することが出来なくなっていたんだ」

「その結果として他の役員は会社をやめ、当時、社内で一番大きな
プロジェクトをやっていた俺が成り行きでこの会社を引き継ぐことに
なったということだ」

「俺はババを引いたってことさ・・・」

「そうだったんですね・・・」

「でも、俺は、社長が社長でよかったと思ってます」

「え?」

「社長はババを引いたと思ってるかもしれませんが、俺はぜんぜん
ババだなんて思ってませんよ」

「だって俺、この会社に育ててもらいましたから」

「まだまだミスばっかりで怒られてばっかりですけど、この会社で
育ててもらわなかったら、俺、絶対もっと酷い人間になってました」

「俺みたいなどうしようもない人間を見捨てずに育ててくれた社長が
いたからこそ、今の俺があるんです」

「だからババを引いたなんて、言わないでください」

「篠原・・・」

「俺、感謝してるんですから、ホントに」

「ありがとう・・・ありがとう、篠原」

社長は涙を流しながら、そう言った。

「もう会社はつぶれちゃいましたけど、何か力になれることがあったら
言ってください」

「俺、後処理でも何でも手伝いますから」

社長が涙をぬぐって顔を上げる。

「あぁ、その気持ちだけで十分だよ」

「これは俺の責任なんだ、あとは俺だけでなんとかする」

「そうしなければケジメがつかないんだ、俺一人でやらさせてくれ」

なぜかこのとき、社長はすがすがしい顔になっていた。

「そうですか・・・分かりました」

「でも俺、この恩はぜったい忘れません」

「社長が引いたのはババじゃなかったって、俺が証明してみせますから、
待っててください」

「分かった、楽しみに待ってるよ」

「はいっ!!!」

 

・・・帰宅後・・・

 

「レオンさまー、レオンさまー!」

「呼んだか?」

「はやっ」

「早くて何が悪い」

「ちょっとびっくりしただけだよ」

「そうか」

「で、何かあったのか?」

「俺、やります!」

「ほう、あと1ヶ月待ってくれと言っていた割には、ずいぶんと決断が
早いではないか」

「実は今日、会社がつぶれちゃったんだ」

「なるほどな、しかしそのわりには顔が明るいな」

「そう?」

「私にはそう見えるが」

「なんていうか・・・いろいろスッキリしたんだよ」

「そうか」

「そういえば就職活動はせぬのか?昨日は再就職するとか何とか言って
おったではないか」

「うーん、それは貯金と雇用保険が尽きそうになったら考える」

「切りつめて生活すればギリギリ半年ぐらいは生きていけそうだし」

「ほう、なんだか1日にして人間が変わったな」

「倒産のショックが大きすぎて頭のねじが飛んだか?」

「それもあるかもね、いきおいで社長にデカイ約束もしちゃったし」

「なんの約束だ?」

「ないしょ」

「ふっ、まあよい、これでやっと私も暇がつぶせる」

「あ、そうそう、しばらく収入がなくなるから、牛乳は当分、低脂肪で
我慢してね」

「おい、それとこれとは関係ないではないか」

「関係あるよ、節約しなきゃいけないんだし」

「うむむ・・・いや、違うぞ、それは断じて違うっ!」

「節約とは、無駄を削るのであって、必要なものを削るのではない!」

「だって牛乳なんて無駄じゃん」

「何を言うか、愚か者め!」

「私がホンモノになる方法を教えるかどうかは、私の気分次第だという
ことを忘れたのか」

「いやぁ、忘れちゃいないけどさぁ」

「だったら牛乳ごときでケチケチするでない」

「へいへい、分かりましたよー」

「分かればよろしい」

 

もふもふ。

「で、これからどうするの?」

「やりたいことをやれ」

「へ?」

「やりたいことを好きなようにやればよい、と言っておるのだ」

「やりたいことって言われてもなぁ・・・」

「ないのか?」

「特には」

「お前、よくそれで、やりますなんて言ったなぁ」

「だって、やるしかないんだもん」

「ではお前は普段、休みの日は何をしておったのだ?」

「うーん、ネコネコ動画を見たり、ニャンチューブ見たり、かな」

「お前はよっぽど猫が好きなのだな」

「まあね」

「それ以外には?」

「他は特に思い浮かばないなぁ」

「そうか、まあよい」

「このままではらちがあかぬので、今日はお前がやると決めただけで、
よしとしておこう」

「あれ、そんなんでいいの?」

「ただし、明日からはビシバシいくから、覚悟しておくように」

「はーい」

「ではもう飯にするぞ」

「もう飯!?」

「早く、牛乳だ、牛乳」

「ホント、食い意地だけは張ってるよな」

鉄平がぼそっとつぶやく。

「何か言ったか?」

「なーんにも」

ここからようやく本編のはじまりである。

 

・・・1日目・・・

 

「おい、こら、目を覚ませ、鉄平」

「んあ?」

「もう朝だぞ」

「へ?・・・って、まだ6時じゃん」

「何を言っておる、もう6時ではないか」

「仕事に行かなくてもいいんだし、もうちょっとゆっくりさせてよ」

「いいから早く起きろ」

「だってぇー」

「だってぇー、じゃない!」

「お前はホンモノを目指すのではなかったのか」

「そうだけどさぁ」

「だったら起きろ」

「うへぇ・・・」

鉄平が布団をたたんでいると、突然ラジオ体操の音声が聞こえてきた。

「ではラジオ体操から始めるぞ」

「な、なんでラジオ体操?」

「体を動かした方が、頭がすっきりするからに決まっておろうが」

「いやいや、そうじゃなくて」

「小さいことばかり気にしてないで、さっさとやれ、ほら」

2人(1人と1匹)がラジオ体操を始める。

腕を前から上げて、せのびの運動からー。

「いち、にー、さん、し・・・・そうそう、昨日は何もしなかった分、
今日はいろいろやってもらうぞ」

「にー、にっ、さん、しっ・・・え?いろいろって?」

「それは体操が終わってから話してやる・・・さーん、しっ」

「へいへい・・・さーん、しっ」

ラジオ体操が終了。

「おぉー、意外といいね、ラジオ体操」

「ホントに頭がすっきりしたよ」

「私が協力しておるのだから効果があるのは当然であろう」

「よし、朝食だ」

「ミルクとかつお節を差し出せ」

「おいおい、なんで勝手にメニューが増えてんだよ」

「いいではないか、お前がかつお節を棚の上に隠しているのは
お見通しなのだ」

「よかねーよ」

「これも貴重な食料なんだから、朝はミルクだけで我慢しろ」

「ぶぅー、これだから貧乏人は」

「いい加減、その悪態なおせよ」

「まあよい、とりあえず食事だ」

 

朝食終了。

「ふぅ、食った食ったー」

もふもふ。

「それでは今日は丸一日、ブレインダンプをやってもらう」

もふもふ。

「ブレインダンプって?」

「ブレインダンプとは、一言で言えば、頭の中をすべて吐き出して
からっぽにする作業のことだ」

「ふーん」

「これをやることによって、お前のやりたいことが見つかる・・・
かもしれない」

「かもしれない、ってなんだよ」

「言葉通りの意味だ」

「見つからないこともあるってこと?」

「そうだ」

「これをやっても見つからなかったらどうするんだよ」

「そのときは、そのときだ」

「んな無責任な」

「今の言葉は聞き捨てならんな」

「そもそもお前はなんで自分にやりたいことがないのか、考えたことが
あるのか?」

「ないけど・・・」

「やりたいことがないというのは、お前が今までずっと自分にウソを
つきながら生きてきた証拠だ」

「親の言うことに従い、先生の言うことに従い、上司の言うことに従い、
そして社会の言うことに従って、すべてを無批判に、自分の頭で考えて
判断することなく生きてきたから、自分が何をしたいのかも分から
ないのだ」

「それは言い換えれば、お前は人生のほとんどを自分の足ではなく、
他の誰かにおんぶされて進んできたということだ」

「いやいや、それはいくらなんでも言い過ぎでしょ」

「俺はちゃんと自分で進路も決めたし、就職先だって自分で選んだよ」

「ではなぜ、やりたいことがないのだ」

「本当に自分で進路も就職も決めたのならば、なぜその進路や就職と
同じようなことをしようと思わないのだ、言ってみろ」

「それは・・・」

「言えぬのか」

「まあよい、では別の質問をしよう」

「お前は大学で何を専攻していた?」

「経営学・・・だけど」

「なぜ経営学を専攻したのだ?」

「経営のことを学んでおけば、就職したときに仕事を進めやすいんじゃ
ないかと思って・・・」

「そんなところだろうな」

「多くの人間、すなわち愚民は、やりたいことよりも、目先にある
お得なことを求める」

「自分が何をやりたいかではなく、今何をやっておくのが(将来の)
自分にとって得なのか、いかに損をしないか、を考えるということだ」

「大学は行かないより行った方がいい、就職はしないよりした方がいい、
福袋は買わないより買った方がいい、割引チケットは使わないより
使った方がいい、ポイントは貯めないより貯めた方がいい・・・
愚かな者はみんなこういう判断で生きている」

「しかし、それは“判断”などと呼べるものではない」

「そもそもなぜ大学は行かないより行った方がいいのだ?いつ誰が
そんなことを決めたのだ?大学に行かずに大成した者は何か損をして
おるのか?」

「それは・・・」

「今言ったようなことはすべて、自分ではない誰かが勝手に決めた
ことでしかない」

「大学も就職も福袋も割引チケットもポイントカードも、すべては
自分ではない誰かによって、仕向けられているだけなのだ」

「その証拠に、本当にお前が理想とする大学や就職先や割引チケット
なんてものはどこにもないはずだ」

「いつだって大学は大学のやり方にこっちが合わせなければならないし、
どれだけ遠くても職場にはこっちから出向かなければならないし、
仕事はどんなものでも渡されれば受けなければならない」

「それらの拘束を、お前は自分で判断して、心から受け入れていた
とでも言うつもりか?」

「いや、でも、俺は就職先は自分で選んで」

「だったらどうしてもっと精一杯やらないのだ、どうして言い訳など
するのだ」

「すべてはお前が自分の判断で選んだことなのであろう」

「自分で選んだことに対して、自分で文句を言うなど、どう考えても
おかしいではないか」

「お前は自分で買ったCDが最悪だったら、そのミュージシャンや
レコード会社に文句を言うのか?」

「好きなら聞く、嫌いなら捨てる、もしくは売る、それだけだろ!」

「それは・・・」

「いい加減、認めたらどうだ」

「私は別にお前をいじめたいワケではない」

「ただ、自分に正直になれ、と言っておるのだ」

「うん・・・」

「お前が正直になりさえすれば、やりたいことなど勝手に見つかる」

「ブレインダンプは、自分に正直になるための1つの方法なのだ」

「・・・悪かったよ、無責任なんて言って」

「俺、今までそんなこと考えたこともなくてさ、なんか軽い気持ちで
考えてた」

「やりたいことがないって、そんなに重大なことだったんだな」

「分かればよい」

「しかし今のような若い時期に私と出会えてよかったな」

「世の中では、このことにすら気付かずに無責任な人生を無責任に
終える者が、ほとんどなのだから」

「いくらでも感謝してよいぞ」

「はいはい、ありがとうございます」

「それだけか?」

「へ?」

「お礼に今日のお昼には煮干しを買って来ますとか、もっと色々あるだろ、
感謝の仕方が」

「それとこれとは話が別だっての」

「うむむ、これだけよい話をしてやったというのに、貧乏人めぇ」

「それよりも早くブレインダンプやろうよ」

「無視するな!」

「分かった分かった、いつもより多めに牛乳入れてあげるから」

「妥協案か、まあいたしかたあるまい、今日はそれで我慢してやる」

 

「で、ブレインダンプって具体的に何やんの?」

「まずは大きめのノートとペンを用意しろ」

「大きめってどれぐらい?」

「特に決まりはないが、A4以上がのぞましい」

「A4のノートならあるけど」

「それでよい」

「あとはペンだ、これは字が書ければ何でもよい」

がさごそ。

「はい、そろえたよ」

「では今から私が出す問いに対して、その答えを可能なかぎり多く
ノートに書き出していけ、それがブレインダンプだ」

「今日1日を使って、これだけを行う」

「これだけ?」

「そうだ」

「そんなの2,3時間で終わるんじゃないの?」

「それはやってみれば分かる、とにかく始めるぞ」

「う、うん」

「まずは今お前の欲しい物をすべて書き出せ」

「欲しい物ね」

ふわふわのベッド、ダイスンの掃除機、ヴィンドウズ8のノートパソコン、
スポーツカー、スマートフォン、新しい包丁、新しい鍋、ニスチルの
ライブチケット、ドリクムのライブチケット、電気ケトル、グッチョの財布、
オメニャの時計、フェナガモの靴、ライキャのデジタル一眼レフカメラ、
オンニョーのスピーカー、ペナソニックのプラズマテレビ、iPed、iPon、
ジャープの電子レンジ、マッサージチェアー、低反発まくら・・・。

「書けたか?」

「うん」

「何個ぐらい書けたのだ?」

「うーんと、3,40個ってとこかな」

「なるほど、この質問についてはそれぐらいでもいいだろう」

「次は今お前が社会に対して貢献したいことをすべて書き出せ」

「社会に対して?」

「そうだ」

「本来は、やりたことをすべて書き出せ、と言いたいところだが、
それでは範囲が広過ぎてお前には何も思い浮かばぬであろう」

「まあね」

「だからこうして私が的をしぼって質問してやっているのだ」

「なるほど、そいつはどうも」

捨て猫をなくしたい、ゴミ問題をなくしたい、貧困層の子供たちを
救いたい、水質汚染を止めたい、被災地でボランティアをしたい、
プログラマーの労働環境を改善したい・・・。

「よしっ、と」

「今回はどれぐらい出せたのだ?」

「10個ぐらいかな」

「それでは少な過ぎるな」

「えぇ、なんでさ、これで全部だよ」

「最低でも30個は出せ」

「そんなに出せないってば」

「とにかく無理矢理でもいいから出せ、それがブレインダンプなのだ」

「分かったよぉ・・・」

アマゾンの密林を守りたい、人身売買をなくしたい、タバコのポイ捨てを
なくしたい、ホームレスをなくしたい・・・。

「ふぅー・・・30個ぴったりだけど、なんとか出せたよ」

「ほれ、出るではないか」

「いいから早く次の問いを出してよ」

「次は死ぬまでに一度でいいからやってみたいことをすべて書き出せ」

「りょうかい!」

バンジージャンプ、スカイダイビング、北極探検、エベレスト登頂、
田舎で畑を耕す、シルク・ガ・ソレイユのショーを見る、ホバマ大統領と
食事をする、1泊30万円のスイートルームに泊まる・・・。

「できたー」

「今度はいくつ出た?」

「40個ぐらいかな」

「よしよし、その調子だ」

「次は生まれ変わったらやってみたいことをすべて書き出せ」

「おぉ、それならいっぱいあるよ」

ピアノを習いたい、ヴァイオリンを習いたい、そろばんを習いたい、
英会話を習いたい、たくさん本を読みたい、東大に入りたい、
演劇を習いたい、ダンスを習いたい、宇宙飛行士になりたい・・・。

「うっし、習いたいことばっかりだけど、40個ぐらい出せたよ」

「うむ」

「ちょっといい?」

「なんだ」

「休憩・・・しない?」

「そうだな、次は昼食をとってからにしよう」

「う、うん」

「バテたか?」

「かなり」

「やってみるとキツイものだろう」

「想像していた以上に疲れるね、これ」

「こんなに頭使ったの、生まれて初めてかも」

「それでいいのだ」

「午後からも続けるから、しっかり休んでおけよ」

「うっす!」

 

・・・1日目の午後・・・

 

「再開するぞ」

「おう」

「今度は無制限にお金が使えるならやってみたいことをすべて書き出せ」

「無制限に?」

「そうだ」

「うっは、それならいっぱい出そうだなぁ」

ジェット機のファーストクラスに乗る、新幹線のグリーン席に乗る、
赤坂のすし屋で10万円の寿司を食べる、高級車でドライブする、
ネズミーランドを貸し切る、都内の一等地に一戸建ての家を建てる、
ブランド品を買いまくる、スーツをオーダーしまくる・・・。

「これで50個ぐらいは出たんじゃないかな」

「十分だ」

「ではこれで最後にしよう」

「かかってこい!」

「もし自分が不老不死だったらやりたいことをすべて書き出せ」

「それって事故で骨が折れたりしても自然治癒するってこと?」

「いちいち設定が細かいな、お前は」

「そこは重要でしょ」

「そういう解釈でも構わぬ」

「よし、分かった」

治安の悪い紛争地域へ行って人の命を救う、FBIに喧嘩を売る、
医療機関に自分の臓器を売りまくる・・・。

「うーん、これまでの答えと色々かぶってくるんだけど」

「そうだろうな」

「かぶっているのも含めて、どれぐらい出せた?」

「20個ぐらい」

「まあいいだろう」

「一旦これで終了だ」

「おわったぁ・・・」

「では晩飯にするぞ、私はもう腹が減って死にそうだ」

「えぇ!?もうそんな時間なの!?」

「時計を見てみろ」

「うわぁ、夜7時って、マジかよぉ・・・」

「わかったら早く用意せよ」

「へいへい」

 

・・・食後・・・

 

「なんかまだ頭がくらくらするんですけど」

「知恵熱だな」

「へー、これが知恵熱なんだぁ、はじめてだよ、こんなの」

「あれだけ集中して考えれば誰だって知恵熱ぐらいは出る」

「そういうもんなのか?」

「そういうものだ」

「ところでブレインダンプはあれで終わりなの?」

「何を言っておる、これからが本番だ」

「えぇー、まだあるのかよー」

「今日書き出したものを、これから3日から1週間ほどかけてずっと
眺め続けてもらう」

「なーんだ、それぐらいなら楽勝だよ」

「ただし」

「ただし?」

「眺めている間はずっと自分に、なぜ、と問いかけること」

「どういうこと?」

「例えばだな、さっき欲しい物を書き出してもらったが、欲しいと
思っているのだから欲しいのにはそれなりの理由があるだろ」

「うーん、まあね」

「それを

なぜテレビが欲しいのか・・・テレビが見たいから

なぜテレビが見たいのか・・・見たい番組があるから

なぜその番組を見たいのか・・・好きな俳優が出ているから

なぜその俳優が好きなのか・・・

という感じで考えていくということだ」

「なんじゃそりゃ」

「現時点ではこの作業の意味は分からなくても構わない」

「とにかく明日からはこれをやってもらう」

「ほぇ」

「分かったら今日はさっさと寝ろ」

「いやいや、まだ夜の9時だよ?」

「明日は4時起きだ」

「4時!?」

「知恵熱が出るほど集中したのだ、すぐに眠れるだろ」

「まあ・・・たしかに」

「ではまたな」

そう言うと、レオン様はそそくさと窓から出て行ってしまった。

 

鉄平が布団を出して寝る準備をしていると、大学時代の友人から
1通のメールが入った。

「よっ、鉄平、明日久々にサークルのみんなで飲み会やるんだけど、
お前も来ないか?」

鉄平が返事を返す。

「悪い、俺の会社、倒産しちゃってさ、今それどころじゃないんだよ」

さらに返事が返ってくる。

「倒産!?マジか・・・うーん、わかった、みんなに事情話して
お前の分ぐらいなんとかしてやるからさ、気分転換も兼ねて出てこいよ、
ちなみに夜6時に三角公園に集合だから」

おどろく鉄平。

すかさず返事を書く。

「えっ、いいのかよ!?分かった、夜6時に三角公園ね、いくいく」

送信。

だが、メールを送ってから、ふと、不安がよぎる。

「さすがに6時にはブレインダンプ、終わるよな・・・」

若干の不安をかかえつつ、鉄平は眠りについた。

つづく。

 

この記事に関するご意見ご感想は

info●philosophia-style.com

までどうぞ。

 

ありがとうございました。

杉野

 

追伸1:ブレインダンプの簡単なまとめ。

1.A4以上の大きさのノートとペンを用意する。
2.ノートに欲しい物を書き出す。
3.同じく社会に対して貢献したいことを書き出す。
4.同じく死ぬまでに一度でいいからやってみたいことを書き出す。
5.同じく生まれ変わったらやってみたいことを書き出す。
6.同じく無制限にお金が使えるならやってみたいことを書き出す。
7.同じく自分が不老不死だったらやってみたいことを書き出す。

以上です。

本文には出てきませんでしたが、もし自分でやる場合は、これらを
合計で200個以上書き出すことを目標にしてやって下さい。

特に3・4・5・6あたりを多く出すことが好ましいです。

「やりたいこと」を見つけたい場合は参考にしてくださいな。

 

追伸2:前々回のクイズについて。

あれからまた2通「回答」を頂きました。

メールを送って下さった方、勇気ありますね(笑)

でも答えてくれて、めちゃくちゃ嬉しいです。

ありがとうございます。

僕の「回答」は次回書かせて頂きますので、それまで回答は
受け付けることにします。

どしどし送ってくださいね。

あと、返事はまだ書けていませんが、いただいたメールには個別に
返信させてもらいますので、少々お待ちを。

 

追伸3:ブログ。

メルマガのバックナンバーはブログに貼っておきます。

復習したい場合はいつでも見に来てくださいませ。

http://kokohiru.philosophia-style.com/

 

追伸4:メルマガの登録・解除。

登録・解除は以下のリンク先からどうぞ。

http://www.mag2.com/m/0001593615.html

 

【第3号】猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(1)

No Comments

ども、杉野です。

最近『ガラスの仮面』という少女マンガを読んでいます。

紫のバラの人、もどかしいです(笑)

いや、そんな話はどうでもいいんですけど、このマンガは極めて
成功哲学的な内容になっていて、僕が1号と2号で話した要素が
まんべんなく散りばめられています。

特に「逃げ道をなくす」という点については徹底されている。

月影先生が厳しいのなんのって(笑)

今話題の体罰問題も、きっとこういう時代の価値観を引き継いで
しまった故の悲劇なのでしょう。

ご参考まで。

 

そうそう。

『ガラスの仮面』に触発されて面白いアイデアが浮かんだので、
僕もライトノベルっぽいものを書いてみることにしました。

ま、気楽に読んでくださいな。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第3号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(1)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

プルルルル、プルルルル。

ガチャッ。

「はい、株式会社メイクベターページです」

「あ、こちら中小企業向けのレーザープリンタを販売しております
プリプリ商事の佐藤と申しますが、社長様おられますでしょうか?」

「えーと、プリプリ商事の佐藤さん、ですね?」

「はい、そうです」

「少々お待ちください」

ピッ。

♪~♪~♪~♪~♪~♪~

「社長、プリプリ商事の佐藤さんという方からお電話です」

「はぁ?」

「いや、だから、プリプリ商事の」

「プリプリだかフリフリだか知らんが、そんな奴は知らん」

「でも、社長に代わってほしいって・・・」

「んなもん、ただの営業に決まってんだろうが、さっさと切れ」

「あ、はぁ」

ピッ。

「あのー、うちは今プリンターは必要ないみたいなので」

「いやいや、そうじゃないんですよ」

「通常のレーザープリンターのトナー代って大体どれぐらいか
知ってますか?」

「知らないですけど・・・」

「普通のプリンターだと1枚の印刷辺り大体0.3円ぐらいの
コストがかかるんです」

「へー」

「おたくの会社では1日に何枚ぐらい印刷されますか?」

「えっと、まあ少なく見積もって300枚ぐら」

ガチャ。

プー、プー、プー。

「あれ?」

「おい」

「ん?」

「ん?じゃねーよ」

「いつまで営業の電話に付き合ってんだよ」

「いや、その、相手が話を続けてきたんで、つい」

「お前さぁ、何回言われたら分かるワケ?」

「前も同じような営業の電話を取り次いで、社長に怒られてただろ」

「あれはまた別の話で」

「別じゃねーっつってんの!」

「篠原よぉ、お前、入社して何年経つよ?」

「2年ぐらい・・・です・・・けど・・・」

「2年やっててまだこんなこと言われてるなんて恥ずかしくないの?」

「・・・すみません」

「いや、すみませんじゃなくて、恥ずかしくないのかって」

「・・・すみません」

「はぁーあ・・・どうしようもねーな、お前」

「たのむから、もっとしっかりしてくれよ」

「はい・・・」

 

「おーい、篠原君」

「は、はいっ!」

「先日頼んでた例の案件のデバッグ、やってくれた?」

「えっ!?あのー、そのー・・・」

「もしかして、やってないの?」

「いえ、少しはやったんですが、途中でホームページの修正依頼が
入ってきて・・・」

「やってないんでしょ?」

「はいぃ・・・」

「なんでいっつも、そうやって言い訳するの?」

「やってないなら素直にやってないって言って謝りなさいよ」

「仕事サボった上に言い訳するなんて、有り得ないんだけど」

「いや、サボっては・・・」

「それが言い訳だって言ってんの」

「さっきも佐々木先輩に怒られてたみたいだけど、まずはその態度を
なんとかしたら?」

「仕事ができるできない以前に人として問題があるよ、篠原君は」

「!?(グサッ)」

「ちょっとは同期の寺田君を見習ったら?」

 

・・・帰宅途中の会話・・・

 

「元気出せって、篠原」

「人として問題があるなんて言われたら凹むに決まってるだろ」

「いや、そうだろうけどさぁ、凹んでても何も始まらないじゃん」

「分かってるよ、それぐらい」

「分かってるならくよくよするなよ」

「寺田は優秀だからバカな俺の気持ちが分からないんだよ」

「いやいや、別に優秀じゃないし、ってか俺もバカだし」

「それはお前の基準だろ?」

「俺の基準では寺田は優秀なんだよ」

「いや、そうかもしれないけどさ、俺だって一応裏ではそれなりに
努力してんだぜ?」

「だろうな」

「人の努力を、だろうな、で片づけるな!」

「ちょっとは興味持てよ」

「せっかく優秀(?)な俺がアドバイスしてやろうってのに」

「お前と俺は違うんだから、アドバイスなんてもらっても、
どうせ役に立たないよ」

「んなもん、聞いてみなきゃ分かんないだろ」

「じゃあ寺田は何やってるんだよ」

「へっへーん、これだよ、これ」

寺田がカバンの中から1冊の本を取り出す。

「じゃーん」

「・・・ナポレオン・ヘル?」

「毎日寝る前にこれを読んでる」

「なんか地獄の番人みたいな名前だな」

「まあ小さいことは気にすんな」

「で、どういう効果があったの?」

「そんなもん俺の会社での働きを見てれば分かるだろ」

「いや、だから、具体的に何がどう変わったのか聞いてんだよ」

「そんなの知らねぇよ」

「これを読んでると、なんか、こう、ふぁ~っとした気分に
なれるんだよ」

「いい言葉もいっぱい載ってるしな」

「ふーん」

「いかにも興味ありそうだな」

「どこが」

「ツンデレなのかと思って」

「言葉の使い方間違えてるだろ、それ」

「まあ何でもいいから、お前も読んでみろって、人生変わるから」

「うーん、あんまり気はのらないけど、帰ったらナマゾンで探して
みるよ」

「おう、ナマゾンなら中古で100円ぐらいで買えると思う」

「じゃあな」

 

・・・部屋に帰宅・・・

 

「ふぅー」

「せっかく寺田が勧めてくれたことだし、一応調べるだけ調べて
みるかぁ」

「ナマゾン、ナマゾンっと」

カチカチッ(ダブルクリック)。

「そういや俺、本なんて数えるほどしか買ったことなかったなぁ」

「えーっと、ナポレオン・ヘルだったよな、たしか」

カチカチッ。

「お、あった」

「意外と人気なんだなー、レビューが100個以上もついてる」

「しかも星4つ以上がほとんどかぁ」

「まあ確かに悪い本じゃなさそうだな」

「あれ?この下の欄に表示されてるのは何なんだろ?」

「えーと・・・

『猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密』

って何だこれ?」

「ナポレオン・ヘルに続いては、ニャポレオン・ヒルってか?」

「読者をなめてるなー、この業界」

「なんでも猫にすりゃいいってもんじゃねーぞ」

「でも気になる・・・なぜか気になる・・・猫好きな俺・・・」

「我慢できない」

カチカチッ。

「お、概要が載ってる」

この本では、あなたが「やりたいこと」を見つけ「やりたいこと」を
実現するために、猫のニャポレオン・ヒルが全力であなたを応援します。

「応援って」

「方法とか教えてくれないのかよ」

「あ、まだ何か書いてある」

なお、ニャポレオン・ヒルの機嫌次第では、その方法を教えることも
やぶさかではありません。

「ずいぶん偉そうだな、この本」

「ってか本の機嫌をとるとか意味わかんねーし」

「値段は中古で1円、残り1冊」

「いかにもクソ本って感じだな」

「でもなんかナポレオン・ヘルより、こっちが気になるなぁ、
猫好きの俺としては」

「仮にクソ本だったとしても1円なら損しても問題ないし、
ナポレオン・ヘルはまた今度にして、とりあえずこれを買ってみるか」

カチッ。

カチカチッ。

「よし、購入完了」

「明日は土曜日だけど、今日はやたら怒られて疲れたし、もう寝よう」

ピッ(消灯)。

 

・・・翌日・・・

 

ピンポーン。

「宅配便でーす」

「はぁーあ」(あくび)

「はーい、ちょっと待ってくださいねー」

「ハンコ、ハンコっと」

ガチャ。

「はい、これがお届け物です」

「お名前、間違いありませんね?」

「あ、はい、篠原鉄平で間違いありません」

「じゃあここにハンコ押してもらえますか?」

ペタッ。

「はい、それでは、またよろしくお願いします」

「ご苦労さまです」

ガチャン。

「ふぅー、朝早くからホントにご苦労なことで」

「しかしなんだろうな、これ」

「また母ちゃんからの仕送りかな?」

「にしてはちょっと小さい気もするけど」

「まあいいや、とりあえず開けてみるべ」

ガサゴソ、ガサゴソ。

「おぉ、ニャポレオン・ヒル!!!」

「って、届くの早くねーか?」

「いや、まあ、早いに越したことはないんだけど、それにしても
速達で送ってくるとは、なんて律義な販売者なんだ」

「あとで5つ星の評価つけとかないと」

「じゃあ早速開いてみましょうかねぇ」

パッ。

「ん?」

「あれ?」

「なんで全部のページが白紙???」

「にゃー」

「おっかしいなぁ、どのページにも一文字も書いてないぞ」

「ごろにゃー」

「うわぁ、詐欺られたかなぁ・・・」

「にゃーと言っておるのが聞こえぬのか!」

「えっ!?」

「後ろだ、うしろ」

「うわぁ!!!!!!」

「よっ」

「な、なんで猫が!?しかも喋ってる!?」

「応援しにきてやったぞ、ニャポレオン・ヒル様が」

「いや、あのー、えぇ!?」

「えぇ!?じゃない」

「ちゃんと本の概要に書いてあっただろうが」

「読んでないのか」

「いやいやいや、読んだけどさぁ、そんな猫が出てくるなんて一言も
書いてなかったじゃん」

「お前、もしかして日本語も読めないのか?」

「私が出てこないで、どうやってお前を応援できるというのだ」

「いや、そうだけどさぁ・・・・」

「まあ細かいことは気にするな」

「これから私がお前を全力で応援してやるから、大船に乗った
つもりでいろ」

「乗れねーよ」

「ちなみに聞くけど、応援ってなに?」

「私が、がんばれー、と言うだけだ」

「はぁ!?」

「いや、だから、がんばれーと私が応援してやると言っているのだ」

「私に応援してもらえるなんて光栄だと思えよ」

「なんか色々突っ込むところが多過ぎるんだけど、話を整理しても
いいかなぁ?」

「ゆるす」

「まず、あなたは誰?」

「ニャポレオン・ヒル様だ」

「正確にはアンチョビーノ・ゴロニャントス・ペディグリー・
フリスキー・カルカン・ニャポレオン・ヒル13世と言う」

「普段は親しみを込めてレオン様と呼んでくれればいい」

「なんか餌っぽい名前が混ざりまくってるな」

「じゃあその・・・レオン様はどこから来たの?」

「魔界、なーんつってな」

・・・シーン・・・

「何を遠慮しておる、笑ってもいいのだぞ、ほら、遠慮せず笑え」

「あはははははは(棒読み)」

「よしよし、素直でよろしい」

「私の国は、お前のような愚民には想像もつかないぐらい遠いところに
ある」

「愚民いうな」

「あぁ、言い方が悪かったな」

「私の国は、お前のようなクズには想像も」

「もういい」

「なんで出身地を聞いてるだけなのに、けなされなきゃいけないんだよ」

「私が何か変なことを言ったか?」

「だからもういいってば」

「そうか」

「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな」

「名乗ることを許してやる、名乗ってみよ」

「そりゃどうも」

「俺は篠原鉄平だ」

「私はお前のことを何と呼べばいい?シノラーか?」

「なんであんたがそんな古いネタ知ってんだよ」

「鉄平でいいよ、鉄平で」

「ほぉ、では鉄平、お前はなぜ私を呼んだ?」

「いや、なんでって言われてもなぁ」

「もしかしてお前は理由もなく私を呼んだのか」

「あの本は興味本位で買っただけだし・・・」

「なんと無礼な!!!」

「私がニャポレオン・ヒル様だと知っての行為か!」

「あんたが勝手に出てきただけでしょーが」

「あぁ、言われてみればそうだったな」

「まあその無礼は許してやる、私もちょうど暇をしていたのだ」

もふもふ。

「おい、何をしておる」

「何って、もふもふしてんだよ」

「だから、なぜもふもふしておるのだ」

「気持ちいいからに決まってんじゃん」

「そうか、それなら仕方あるまいな」

もふもふ、もふもふ。

「ところで、鉄平」

「ん?」

「腹が減ったぞ」

「はぁ?」

「だから腹が減ったと言っておるのだ」

「なに、お前のような貧乏人の家で贅沢は言わぬ」

「マタタビで我慢してやろう」

「んなもん、一人暮らしの男の部屋にあるワケねーだろ」

「ってか貧乏で悪かったな」

「なんと、最近の貧乏人の家にはマタタビもないのか」

「ある方が珍しいよ」

「うーん、あわれなことだ」

「仕方がない、今はとりあえず牛乳で我慢してやる」

「さすがに牛乳ぐらいはあるだろ、ほら、はやく差し出せ」

「はいはい、分かったよ、差し出せばいいんでしょ、差し出せば」

「もう突っ込む気もうせたよ」

ガタッ。(冷蔵庫をあける)

ごそごそ。

バタン。

「はい、牛乳」

「あ、ちょっと待って、お皿にうつすから」

「うむ」

「はい」

ペロペロ。

「ん、これはもしや、低脂肪牛乳ではないか?」

「そうだけど、何か問題でも?」

「いや、まあ仕方あるまい、貧乏人の家ではこれが精一杯だろう」

「はいはい、悪るぅございましたなぁ、貧乏人で」

ペロペロ。

「腹が膨れた、もう皿はさげてよいぞ」

「へいへい」

 

「さて、これからどうしようかのぉ」

「お、そうだ、まずは鉄平のことをもっと知らねばなるまいな」

「俺のこと?」

「そうだ」

「私の暇つぶしは、人の夢を叶えることだからな」

「ずいぶんスケールのでかい暇つぶしだな」

「悪いか?」

「いや、悪くはないけど、それって本当なの?」

「本当も何も、世の知られざる成功者のほとんどは私の暇つぶしによって
大成しておる」

「知られざる成功者?」

「そう、ホンモノたるもの、世の脚光を浴び、世間の愚民から支持されて
いるようではならんのだ」

「ホンモノは愚民ではなく、本人と同じようなホンモノに支持され
なければならない」

「ほぉ」

「お前のような愚民には分からんだろうが、ホンモノの成功者ほど
実は裏でひっそり目立たずに世界を動かしているものなのだ」

「もちろん、全員が、とは言わんがな」

「一言余計だけど、なんとなく言ってることは正しい気がする」

「ただし、私の暇つぶしには条件がある」

「条件?」

「まずは相手が何よりも優先して、やりたいことをやると誓うこと」

「それは逆に言えば、やりたくないことを極力やらないと誓う
ということだ」

「例えば?」

「会社に行くのが憂鬱なら、会社に行かないこと」

「それじゃ暮らしていけないじゃん」

「そんなことは私は知らぬ、とにかくこれが条件の1つだ」

「他にも条件はあるが、現段階ではこれだけ守ると誓ってくれれば、
ホンモノになる方法をお前に教えよう」

「なるほどね、言いたいことは分かった」

「では聞こう」

「お前はホンモノになりたいか?」

「いやいや、いきなりそんなこと聞かれても・・・」

「では、なりたくないのか?」

「そうじゃなくて、今すぐには決められないって言ってるんだよ」

「じゃあ10分後ならどうだ?」

「10分もちょっと・・・」

「10分でもダメなのか、どうしようもないクズだな、お前は」

「そんなに暴言はくなよぉ、ただでさえ会社でも怒られてばっかり
なのに、休日にまで凹まされるなんて、たまんないよ」

「だったらなんでお前はそんな人生を変えてやろうと思わないのだ」

「私にはそっちの方が不思議だぞ」

「お前がホンモノになりさえすれば、凹むようなことはなくなる
ではないか」

「そりゃそうだけど・・・こっちにはこっちの事情があるんだよ」

「事情とはなんだ?」

「いろいろだよ」

「そのいろいろとはなんだと聞いておる」

「あぁ、もう、俺のことなんてほっといてくれよ」

「そうか」

「せっかく腹が膨れて機嫌がよかったのだが、気が変わった」

「もうお前のことなど知らぬ、勝手にしろ」

「あぁ、勝手にするさ」

そう言って、鉄平が少し視線を外した瞬間にレオン様は姿を消した。

「なんなんだよ、アイツ」

 

・・・その日の夜・・・

 

むしゃくしゃした鉄平は同僚の寺田を誘って飲みに行くことにした。

「でさぁ・・・っていうワケなんだよ」

「お前なに寝ぼけたこと言ってんの?」

「あ、そうか、昨日あんまり怒られたもんだから、ちょっと精神的に
おかしくなったんだろ」

「ちがうよ、今の話は本当なんだって」

「本から猫が出てくるワケないし、ましてや猫が日本語をしゃべったり
するはずねーじゃん」

「お前だって冷静になれば分かるだろ、それぐらい」

「そりゃ俺だって信じたくないさ、そんなこと」

「でも本当なんだから仕方ないじゃないか」

「はいはい、分かった分かった」

「今日はとことん付き合ってやるから、今の話はぜんぶ忘れろ」

「あ、それとついでに俺のナポレオン・ヘルも貸してやるよ」

「アンチョビだかナポリタンだか知らないけど、そういう変な本を
買うから、痛い目に遭うんだって」

「うーん・・・」

「真面目に努力しようぜ、篠原」

「結局それが一番の近道なんだよ」

「・・・そうだな」

「ところで篠原」

「ん?」

「お前、うちの会社のウワサって知ってるか?」

「なんのウワサ?」

「いや、俺も詳しくは知らないんだけどさ、どうやら結構経営が
ヤバイらしいんだよ」

「え、マジで!?」

「なんかうちの社長がデカイ企業のホームページで商品の金額を
間違えて表記しちゃったらしくてさ、とんでもない損失を出したとか
なんとか」

「それってめちゃくちゃヤバイじゃん」

「なんでそんなヤバイ情報が社内で共有されてないの?」

「やっぱそう思うよな?」

「おもうおもう」

「だから余計にヤバイんじゃないかと思うワケよ」

「失敗を次に活かせ、ってのが社長の口癖だったのに、その社長が
自らその理念を裏切るなんて、おかし過ぎると思わないか?」

「おかしいよ、それ」

「俺、もしかしたら、社長が何も言えなくなるレベルですでに会社が
ダメなんじゃないかと思って」

「まずいなぁ・・・」

「まあ俺たちが今ここで何を考えても仕方ないんだけどな」

「ただ、一応覚悟はしておいた方がいいと思うぜ」

「また就活やんのかー、やだなー」

その日、鉄平は寺田と朝まで飲み明かし、帰ってくるなり倒れこむ
ようにして眠った。

 

・・・次の日(日曜日)・・・

 

「おい」

「うーん、むにゃむにゃ・・・」

「おい」

「もう飲めないってばぁ・・・」

「起きろ、鉄平」

「あん?」

「私は腹が減った、何か差し出せ」

「えぇ!?なんでいるの?」

「誰が帰ると言った」

「私は、お前のことなど知らぬ、と言っただけで帰るとは一言も言って
おらんぞ」

「はぁ・・・」

「ほら、そんなことはいいから、早く牛乳を差し出せ」

「昨夜はお前がいなかったから、晩飯抜きになってしまったではないか」

「まあ、お陰で少しスリムになった気はするが」

「なってねーよ」

「そうか」

「っていうか、帰ってないならどこ行ってたんだよ」

「いや、まあ、私にもいろいろあるのだ、お前と一緒でな」

「それよりも」

「それよりも?」

「はやく牛乳を」

「はいはい、分かったってば」

ガチャッ。

「はいよ」

ペロペロ。

「むっ、今日も低脂肪ではないか」

「当たり前だろ、今のが無くなってもないのに買い替えられるかよ」

「うーむ・・・」

「この牛乳が無くなったら少しいいヤツに変えてやるから、それまで
我慢してくれ」

「貧乏人はあわれよのぉ」

「まだ言うか」

ペロペロ。

「よし、さげてよいぞ」

「文句言うわりには、いつも綺麗に食うよな」

「育ちが良いのでな、残すことはマナー違反だと教えられて育った」

「なるほど」

 

「でだ」

「気持ちは変わったか?」

「ちょっとだけね」

「ほう、どうしてだ?」

「昨日の夜、うちの同僚から会社がヤバイって話を聞いてさぁ」

「なるほどな」

「それで少し危機感が生まれた、ということか」

「ただ、まだ実際には潰れてないし、探せば他にも就職口はあるから」

「あまいぞ」

「えっ?」

「お前は、わざわいは重なる、ということを知らんのか?」

「悪いことというのは、大体連鎖して起こるようになっておるのだ」

「そ、そんなの、ただの人生訓だろ」

「それが甘いと言っておる」

「この場合、実際にそのわざわいが起こるかどうかは重要ではない」

「それが起こることを前提に日々を生きていれば、何が起こっても
動じることがない、ということをそういった言葉は伝えておるのだ」

「こんなこと、お前は考えたこともなかろう」

「うーん・・・」

「それは別に悪いことではない」

「ただ、これだけは自覚しておけ」

「お前はお前の知らないところで、お前がホンモノになっていれば
救えたであろう人たちを、今この瞬間にも見捨てているのだ」

「例えばもう亡くなったが、マイケル・ジャクソンという男がおるな」

「うん」

「彼は類まれな才能の持ち主で、おそらく尋常ではない努力をつんで
あの地位に上りつめたのだと思う」

「彼の影響力は強大で、世界中のファンが彼のパフォーマンスに熱狂し、
心奪われ、そして感動した」

「もし仮に、彼が一切の努力を放棄し、たんなる凡人として一生を
おくっていたとしたら、そのファンたちはどうなっていたと思う?」

「また別のアーティストのファンになっていた、とか?」

「まあそれも間違いではあるまい」

「しかし、何よりも重要なのは、彼が生み出すはずだった感動を
何億人というファンが受け取れない、ということだ」

「彼のライブもなければ、彼のCDも発売されない」

「それがどれだけの人にとって不幸なことであるか、想像してみろ」

「想像はできるけど、それと俺のことと何の関係があるんだよ」

「鈍いヤツだな」

「お前は凡人のマイケル・ジャクソンと同じだと言っておるのだ」

「生み出せるはずの感動を生み出さず、救えるはずだった人を
救わずに、のうのうと生きている、無責任な人間なのだ、お前は」

「お前がどこまでホンモノになれるのかは私にも分からない」

「分からないが、少なくとも必死で努力すれば10人や100人
ぐらいは感動させられる、救える人間になることは間違いない」

「それぐらいの人間になら、努力すれば誰だってなれる」

「逆に言えば、努力しなければそれだけの人間を見捨てることになる、
ということだ」

「だからお前はホンモノにならなければならない」

「分かったか?」

「いや、言いたいことは分かったけど、俺みたいな人間に誰かを
救うなんてできるワケないし、そんな重い責任は背負えないよ」

「何をとぼけたことを言っておる」

「えっ?」

「その責任は、お前の意志に関係なく、もう背負っておるのだ」

「それはお前に限らず、私も、他の人間も同じ」

「お前は人間じゃないだろ」

「そうだったな」

「しかし、今はそんなことはどうでもいい」

「とにかく、お前は、人間は、ホンモノになるしか道はないのだ」

「・・・ちょっと聞いてもいいか?」

「なんだ」

「レオン様は、俺がホンモノになれると思う?」

「思うとか思わないとか以前に、興味がない」

「へ?」

「言ったろうが、これは私の暇つぶしだと」

「お前がどうなろうが、そんなことは私の知ったことではない」

「暇つぶしの目的はただ1つ、私にとってそれが楽しいかどうか、
それだけだ」

「ほぇ」

「お前はゲームをするときに、いちいちクリア出来るかどうかなんて
考えるのか?」

「どれだけ楽しそうなゲームでも、クリアできなさそうなゲームには
手を出さないのか?」

「私はそんな奴は見たことがないぞ」

「まあ言われてみれば確かにそうだな」

「私はそれが面白そうだからやるだけだ」

「それ以上でもそれ以下でもない」

「で、鉄平、どうするのだ、やるのか、それともやらぬのか」

「いろいろ事情はのみこめたけど、やっぱりまだ決められないよ」

「んんー、もどかしいヤツめ」

「では、どうすれば決められる?」

「私はもう暇で暇で死にそうなのだ」

「もう少しだけ、時間をくれないか?」

「どれくらいだ」

「3ヶ月!・・・いや、1ヶ月でいい、それだけ時間がほしい」

「・・・そんなには待てない、と言いたいところだが、今のところ
次の予約も入っておらんようだから、待ってやることにしよう」

「ありがとう!」

「ところで予約ってなに?」

「余計なことは気にするな」

「う、うん・・・」

「それでは一旦、私は消えさせてもらう」

「また1ヶ月後、決意が固まったら本に向かって私の名前を呼ぶがいい」

「むろん、1ヶ月より早く決意が固まれば、そのタイミングで呼んで
くれても構わない」

「私は暇をしておるのでな」

「うん、分かった」

「では、またな」

「あ、ちょっと待って」

「なんだ」

もふもふ、もふもふ。

「はい、もう大丈夫」

「そうか」

「また会おう」

彼はそう言うと、窓から飛び出していった。

 

・・・次の日(月曜日)の会社・・・

 

社員全員がそろったところで、突然、社長が大きな声を出した。

「みんなに大事な話がある」

つづく。

 

この記事に関するご意見ご感想は

info●philosophia-style.com

までどうぞ。

 

ありがとうございました。

杉野

 

追伸1:前回のクイズについて。

引き続き、前回のクイズの回答をお待ちしております。

ちなみに今こちらに届いている回答は1通のみです。

念のために言っておきますが、僕が求めているのはあくまでも
「回答」であって「正解」ではありません。

あの手の問題は「答えること」に意味があります。

その点だけ、お間違いのないように。

 

追伸2:ブログ。

メルマガのバックナンバーはブログに貼っておきます。

復習したい場合はいつでも見に来てくださいませ。

http://kokohiru.philosophia-style.com/

 

追伸3:メルマガの登録・解除。

登録・解除は以下のリンク先からどうぞ。

http://www.mag2.com/m/0001593615.html