【第32号】猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(11)

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ども、杉野です。

今回は何ヶ月かぶりのニャポレオン・ヒルでございます。

いつも思うんだけど、次の展開どうしようかなぁ・・・(苦笑)

ゴールの見えない物語は、まだしばらく続くことになりそうです。

 

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第32号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(11)

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・・・2ヶ月と13日目・・・

ピンポーン!(チャイムの音)

ピンポーン!

ピンポーン!

「うぅ・・・なんだよ、朝っぱらから・・・」

鉄平がベッドから起き上がる。

ピンポーン!

「はいはい、分かったから、ちょっと待ってよ」

ピンポーン!

「しつこい!」

ガチャ(ドアを開く)

「うぃーっす!」

チャイムの主は寺田だった。

「こんな朝早くに何の用だよ」

「朝は朝だけど、早いったって、もう9時だぜ?」

「えぇ!?そんな時間になってたの?」

「昨日はぐっすり眠れたみたいだな」

寺田が皮肉交じりに言う。

「まぁね」

鉄平が不機嫌に答える。

「取り敢えず部屋に上がらせてもらってもいいか?」

「どうぞご自由に」

「顔洗って着替えてくるから適当なところに座って待ってて」

「あいよー」

準備を終え、寺田の座っている正面のソファーに鉄平が腰かける。

鉄平がふっと一息入れたところで寺田が話し始める。

「じゃあ早速詳しいことを話しましょうかね」

「はぁ・・・」

さすがに鉄平の表情は憂鬱だ。

「そんな顔すんなって」

鉄平は目をこすっている。

「まず俺たちが何をやってるのかっていう話からな」

「俺たちは健康食品やサプリメント、化粧品なんかをある会社から
販売許可をもらって売っている」

「ある会社って?」

「『パッピービジネス』って会社、どうせ知らないだろ?」

「聞いたことないなぁ、ってか名前が胡散過ぎるよ」

「まあまあ、細かいことは気にしない」

「俺たちはそこの商品を売るにあたって、ちょっと特殊な組織で
活動してるんだけど、ニャタリーはその組織の長で、俺はそこの
副部長か課長ぐらいの地位にいるんだ」

「この組織はデカくなるほど組織全体の収益が上がるシステムに
なっていて、最近急激に成長してるんだけど、簡単に言えば
もっと成長に勢いをつけるために篠原にも協力してもらおうと
思ったってワケ」

「じゃあ弟子入りっていうのは?」

「まあ、その組織の平社員になる、ってことだな」

「なんだぁ、それぐらいのことなら普通に話してくれれば
よかったのに」

「言ったらオッケーしたか?」

「いや、それとこれとは話は別だけど」

「だろうな」

「だからって、あんな強引なやり方はないだろ」

「普通はあんなやり方はしないんだけど、篠原みたいなタイプは
ちょっと事情が違うんだよ」

「僕みたいなタイプってなんだよ」

「うーん、まあ、それは追々話すから、今はもうちょっと
基本的な話をさせてくれよ」

「なんか気持ち悪いなぁ」

「物事には順序ってもんがあるんだよ」

「うーん・・・」

寺田の発言に納得いかないながらも、鉄平は続きを聞くことにした。

 

「今言った組織のことなんだけど、その組織では利益の分配率が
ちゃんと決まっていて、なんとなく予想がつくようにニャタリーが
一番多くて、役職が下がるごとに分配率も下がっていくシステムに
なっている」

「当然、平社員より課長や部長の方が報酬は多くなる」

「ただ普通の会社と違って、平社員が部長に昇進するみたいなことは
この組織では起こらない」

「え、なんで?」

「なんでって言われてもなぁ・・・そういうシステムだから仕方ない、
としか答えられないわ」

「あ、その代わりに自分の弟子というか部下というか、そういう人を
集めることによって、実質的に社長や部長クラスの地位になることは
できる」

「実際、ニャタリーはそうやって長になっただけだから、不公平とか
そういうのはないんだよ」

「ふーん」

鉄平は腑に落ちたような落ちないような変な気持ちだ。

「具体的な利益率については後で資料を渡すからそれを読んでおいて
ほしいんだけど、今から話したいのは、具体的に何を誰にどう売るか、
って話」

「要するに、俺がどうやって今みたいになったか、ってことよ」

「うん」

「で、いきなりでアレなんだけど、篠原には最初にハッピービジネスの
商品を自分で買って使ってみてほしいんだ」

「いやいや、どうやって売るかって話じゃないの?」

「もちろん売るには売るんだけど、自分で使ってみたものじゃないと
相手に対して説得力がないだろ」

「例えば、私も使っているのでお勧めです、って言われるのと、
私は使ってないけどお勧めです、って言われるのだったら、
どっちが買う気になるよ?」

「そりゃ前者だけど」

「だろ?」

「そういう単純なこと」

「なるほど」

「だから篠原にはパッピービジネスの商品を一通り全部使ってもらって、
その上でそれを広める活動をしてほしいんだよ」

「理屈は分かったんだけど、今はそんなお金ないよ」

「何言ってんだよ、今時どこにでもニャコムがあるじゃん」

「ニャコムって・・・もしかしてサラ金の?」

「それ以外に何があるよ」

「いやいや、借金するなんて嫌だよ、親からも借金だけは絶対にするな、
って言われて育てられたし」

「それは洗脳だな」

「思いやりって言ってくれよ」

「違うって、それは洗脳だよ」

「確かに一般には、借金=悪、みたいなイメージが染み着いているけど、
大企業だって大きな工場を作るときは借金してんだぜ?」

「それぐらいは知ってるよ、でも一個人の場合とでは事情が違うだろ」

「同じだって」

「大企業が借金をするのはそれ以上の利益があると見込んでいるから」

「だったら今のお前も借金以上の利益を見込んでるじゃん」

「どういうこと?」

「鈍いヤツだなぁ、ニャタリーに弟子入りしたんだから、そこから
ビジネスを始めさえすれば、利益が増えていくに決まってんだろ」

「俺でもここまで稼いでんだから、お前にだってできるって」

しばし考え込む鉄平。

「・・・寺田も最初はハッピービジネスの商品を買ったの?」

「あたりまえだのクラッカー」

「???」

一瞬空気が凍りつく。

「あ、ネタが古過ぎたか」

「気を取り直して・・・当たり前だろ、今も買って使ってるよ」

「今も?」

「だからお前にも使ってみてほしいんだよ、結構いい商品だからさ、
マジで」

「俺が使ってなかったら、お前にも勧めないって」

「そりゃそうだよな・・・」

鉄平は徐々に寺田の話に引き込まれていく。

「ハッピービジネスの商品って一通り買うといくらぐらいになるの?」

「うーん、20万ぐらいかなぁ」

「そんなにするの!?」

「1つ1つはそこまで高くないんだけど、いろんな商品があるからな」

「まあ最悪、美顔器を後回しにすれば12万ぐらいにはなるけど」

「美顔器って・・・」

「これが凄くてさぁ、お前も今度俺のを使わせてやるよ、びっくりする
ぐらい顔が変わるから」

「美容に興味なんてあったっけ?」

「元々はなかったけど、使い始めたらやめられなくなった」

「そんなもんなのかなぁ」

「そんなもんだって」

寺田の妙なテンションの高さにつられて、活動する方向へと
誘導されていく鉄平。

しかし、ここでゲンさんが黙ってはいなかった。

ゲンさんは2人に気付かれないよう、横の絨毯の上にささっと
ある新聞を置き、その方向の鉄平の肩を絶妙な加減でタッチした。

鉄平が横を振りむく。

そこで彼の目に飛び込んできたのは「マルチ商法で逮捕」という
記事の見出しだった。

 

「ちょっと質問してもいい?」

「なんだよ、あらたまって」

「経験したことないからはっきりとは分からないんだけどさ、
寺田が今やっていることって、マルチ商法の勧誘じゃない?」

「ちっちっ、それは古いな、篠原」

「お前の反応が古いよ」

「今はネットワークビジネスって言うんだぜ」

「いや、呼び方の問題じゃなくて、それをやっているのか
そうじゃないのかって話だよ」

「まあ、その通りだよ」

「やっぱり」

「でもお前、マルチ商法って何かちゃんと調べたことあるか?」

「ない・・・けど」

「お前がどう考えているかは知らないけど、マルチ商法っていう
システム自体は、別に犯罪じゃないんだぜ」

「え、そうなの?」

「たまにニュースで騒がれているのは違法な勧誘があったからで、
そのビジネス自体に違法性があるワケじゃないんだよ」

「違法な勧誘ねぇ・・・じゃあ寺田とニャタリーが僕にやったことは
違法な勧誘じゃないの?」

鉄平の鋭い指摘が寺田の胸に突き刺さる。

「ギクッ!」

「いちいち古いよな、お前」

「あれは、その、あれだ、ニャタリーがだな、その・・・」

寺田があわあわしているところで、どこからともなくニャタリーが
現れる。

「なに取り乱してるのよ」

「ニャ、ニャタリー!」

寺田は泣きそうな顔をしながらニャタリーの方を向いた。

「そんなんじゃ先が思いやられるわね」

呆れるニャタリー。

そこから彼女の反撃が始まる。

「あの勧誘が違法だとしてもそうでないとしても、鉄平がこの部屋に
一泊したことは事実だわね?」

「事実だけど、それは二人が僕をここに閉じ込めたからだろ」

「私は別に鉄平を閉じ込めた覚えはないわよ」

「だって、弟子にならないと部屋代を払ってもらう、って言ったじゃ
ないか」

「そうとは言ったけど、ここで一泊しなさいと言った覚えはないわ」

「契約書を書いた後はあなたが個人的にここを使ったワケだから、
それ以前の3人で使っていた時間を差し引くとしても、
60万円分ぐらいはあなたがこの部屋を使ったことになるわね」

「それ、払う気ある?」

「そ、そんなこと急に言われたって・・・」

「私が文字通り鍵を閉めてあなたを閉じ込めたなら私の犯罪だけど、
あなたはいつでも部屋から出る自由があったのに、そこから
出なかった」

「要するに、あなたは私から既に100万円を受け取ったことに
なってるのよ」

ニャタリーの勢いに押されて冷静さを失っていた鉄平は、
彼女が話をすり替えていることに気付くことができなかった。

それをいいことに、ニャタリーはさらにまくし立てる。

「あ、そうそう、昨日あなたに書いてもらった契約書だけど、
あれになんて書いてあったかちゃんと確認したかしら?」

鉄平は昨日のことを思い出そうとしたが、最後の方は精神的にも
肉体的にも疲弊し切っていたため、ほとんど覚えていなかった。

「あそこにはこう書いてあったのよ」

『私は○年○月○日から5年間、ニャタリーの弟子で
あり続けることを誓います。弟子である間はニャタリーの
言うことにすべて従い、どうしても従えないようなことが
あった場合には罰金として1千万円を支払います』

それを聞いて鉄平の心臓がバクバクと高鳴る。

「そんなの聞いてないよ」

「いや、でも自分でサインしたんだから仕方ないでしょ」

弱った鉄平に寺田が追い打ちをかける。

「だってサインしないと」

と鉄平が喋りかけたのを遮るようにニャタリーが口を挟んだ。

「私は契約書にサインしろと言った覚えはないわよ」

「私は、弟子になりなさい、と言っただけで、弟子になるためには
契約書にサインしないといけない、とは言ってないわ」

「そんなの・・・そんなの分かるワケないじゃないか!」

鉄平はもう何がどうなっているのか分からず、怒りをぶちまけるしか
なかった。

「なに怒ってるのよ」

「別に私はあなたを焼いて食おうって言っているワケじゃないし、
むしろ稼がせてあげるって言ってるのよ?」

「それの何が不満なの?」

「そうだよ、俺だって悪いようにはしないって言っただろ?」

「契約書の内容は若干大袈裟に書いてあるだけで、
お前をニャタリーの奴隷にしようってワケじゃないんだよ」

それから二人がどれだけ詭弁を弄しても、鉄平は頭を抱えて
下を向いたまま何も答えようとしなかった。

 

お昼の時間も過ぎようとしていた頃、鉄平がやっと口を開いた。

「・・・今日はもう・・・帰らせてくれないか」

さすがの二人も空気を読んだのか、その日はビジネスの説明を
中断して、鉄平を家に帰すことにした。

帰り際、寺田が鉄平に声をかける。

「ちょっとは悪かったと思ってるよ、俺も」

「ただ絶対悪いようにはしないから、それだけは分かってくれ」

「こう見えて俺も最初はニャタリーのこと疑ってたんだぜ」

「でも、ちゃんと言うことをきいてたら稼げるようになったし、
最初に思っていた悪いことは何も起こらなかったんだ」

「だからさ、初めは騙されたと思って付き合ってくれよ」

「この借りはいつか返すから」

鉄平は頷きもせず、ただただ寺田の話を聞いていた。

この様子をゲンさんは遠くから見ていた。

「相変わらずのやり方だな、ニャタリー」

「お前に悪気がないのは分かってんだが、それが逆に話をややこしく
してんだよ」

「お前がそうなっちまったのは俺にも責任がある」

「自分のケツは自分で拭くしかねーが、さて、どうしたものか・・・」

「これはちょっと長丁場になりそうだな」

こうして鉄平はあらぬ方向へと引きずり込まれていくのだった。

つづく。

 

【第28号】猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(10)

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ども、杉野です。

久々にニャポレオンを書きました。

次回からニャタリー編の本編って感じでしょうかね。

今回はその導入になっています。

レオン様の出番はしばらくお預けです(笑)

成功哲学はどこへ?って感じですが、物語の性質上、
すべての記事にその要素を入れるのは無理があります(苦笑)

そこはご了承くださいませ。

 

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第28号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(10)

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・・・2ヶ月と12日目・・・

「うーん、んんっ、あー・・・」

「ねみぃー・・・」

鉄平は自然と朝4時に目を覚ました。

「あー・・・んぁ?」

「あ、そういえば、もうこんな時間に起きなくてもいいんだった」

「でもこれだけ習慣になってると逆にやらない方が気持ち悪いん
だよなぁー・・・」

「さて、どうするか」

しばし悩む鉄平。

2分ほど悩んだあとに彼はあっさりと結論を出した。

「別に瞑想に罪はないんだし、これぐらいは続けておくか」

こうしていつものように瞑想を終えた鉄平はそそくさと朝食を済まし、
寺田との約束の前にもう一度ゲンさんに会いに行くことにした。

「今日はいるかなぁ・・・」

不安を抱えながら例の場所へ向かう。

辺りを見回すが、今日もゲンさんらしき猫は見当たらない。

と、そこに茶色い猫が鉄平の視界に入った。

「ゲンさんっ!」

「にゃー」

「なんだ、普通の猫か・・・」

「にゃーん」

「お前はいいよなー、気楽そうで」

「僕もお前みたいにのんびり暮らしたいよ」

そう言いながら近づくと、猫は駆け足で去って行ってしまった。

「はぁーあ・・・」

「おーい、ゲンさーん!ゲンさんってばー!いないのー?」

何度呼んでもやはりゲンさんは現れない。

このときもゲンさんは陰に隠れながらずっと鉄平の様子を窺っていた。

「どうしちまったんだ、アイツは」

「昨日と言い、今日と言い、この間と全然様子が違うじゃねーか」

「せっかく俺が喝を入れてやったのに、昨日から腑抜けた顔ばかり
してやがる」

「こいつぁ、何かあったに違いねぇ」

「とはいえ、ここで俺が表に出ていくと話がややこしくなりそうだ」

「もうしばらく様子を見て、状況を把握するべきだな」

ゲンさんは鉄平のことを放っておくことができなかった。

ブログの件からも分かるように、ゲンさんは天性の世話焼きなのだ。

それでいて義理と人情に厚いため、一度でも関わった人間のことは
放っておくことができない。

これが鉄平にとってこれ以上ないほど心強い味方となった。

そんな味方があとをつけて陰で見守ってくれていることなど
つゆ知らず、鉄平はゲンさんとの再会を諦め、寺田との約束の
場所へと向かうのだった。

 

・・・ホテルニャポレオン東京・・・

 

「うへぇー、表の入口が小さかったから普通のビジネスホテルかと
思ったけど、こんなにセレブなホテルだったのか・・・」

「この服装じゃ、場違いもいいところだな」

鉄平は一人で苦笑いしている。

「やけに猫の置物が多いのは、やっぱりあの名前に合わせてるん
だろうか」

「そういえば言われたときはその場の勢いで気付かなかったけど、
よくよく考えると嫌なことを思い出させる名前だよな・・・」

「まあ、もう関係ないからいいんだけど」

「篠原ー!」

「ん?」

鉄平が横を見ると、ロビーの豪華なソファーに座ってスーツに
身を包んだ寺田が手を振っていた。

「お、おう」

「待ってたぜ、じゃあ早速行こうか」

「うん」

部屋へ向かうエレベーターの中で鉄平が寺田に話しかける。

「ただ話をするだけなんだから、別にこんないいホテルじゃなくて
よかったのに」

「言ってなかったけど、これはニャタリーの指定なんだよ」

「え、そうなの?」

「そう」

「俺も話をするだけならもっと普通のホテルでいいと思ったんだけど、
ニャタリーがニャポレオン東京にしろってうるさくてさ」

「ふーん」

「お、着いた」

ドアが開くと、そこは部屋の入口になっていた。

「な、なんじゃこりゃ!」

「うおぉ、すげー!」

「寺田はニャタリーと一緒に来たんじゃないの?」

「いや、俺もこの部屋には今初めて来たんだよ」

鉄平たちの目の前には、リビングへと繋がるドアがある。

「よし、じゃあ入るか」

「う、うん」

寺田がそっとドアを開けると、一枚ガラスの巨大なパノラマの窓が
彼らを出迎えた。

「ひゃー!!」

2人は言葉にならない言葉を口にする。

と、次の瞬間、彼らの視界の下の方から声が聞こえた。

「おーほっほっほっ、2人とも興奮してるみたいね」

寺田が声をあげる。

「ニャタリー!」

ニャタリーはリビングの大きな絨毯の上に座っていた。

「待ちくたびれたわよ」

「え、さっき来たばっかりでしょ」

「おだまり!」

「へいへい、いっつもその調子なんだから」

寺田が鉄平の方を向く。

「あ、そうそう、こちらが偉大なる俺の師匠、ニャタリー嬢です」

「ニャタリーよ、よろしく」

「あなたのことは亮太から聞いてるわ」

「あ、亮太は俺の下の名前だから」

「篠原鉄平です、よろしくお願いします」

「いきなりだけど、鉄平って呼ばせてもらうわ、私のことは
『世界一美しくて優しくて賢いニャタリー様』と呼びなさい」

「え、あ・・・」

鉄平は声が出ない。

「冗談に決まってるでしょ、ニャタリーでいいわよ」

「それと敬語はなし、堅苦しいのは嫌いなの」

「はい・・・いや、うん」

「そう硬くなんなってぇ」

寺田が鉄平の背中をたたく。

「うへっ・・・」

「興奮してるところ悪いんだけど、早速本題に入りましょうか」

「本題って?」

「弟子入りのことに決まってんだろ、何寝ぼけてんだよ」

「あのー、そのことなんだけどさ」

「どうした」

「やっぱり気が進まないんだよね・・・」

「なんでだよ、まだゲンさんってヤツのこと考えてんのか?」

「うん・・・」

「ゲンさんって?」

ニャタリーが何かを察した様子で寺田に尋ねる。

「いや、ニャタリーの他に弟子入りしたい猫がいるらしいんだけどさ、
そいつの名前がゲンさんって言うんだよ」

「俺はそんなヤツやめとけって言ったんだけど」

「それってもしかして・・・茶色い猫のこと?」

「え、ニャタリーはゲンさんのこと知ってるの!?」

「し、知らないわよ、あんな猫のこと・・・」

突然ニャタリーの顔色が曇る。

「ねぇ、何か知ってるの?ゲンさんって何者なの?凄い猫なんでしょ?
知ってるなら教えてよ!」

「・・・(イライラ)」

「ニャタリーとゲンさんはどういう関係なの?さっき知ってる
ようなこと言ったじゃない」

「だから知らないって言ってるでしょっ!!これ以上その名前を
出したらひっかくわよっ!!」

ニャタリーはヒステリー気味にそう叫んだ。

「おい、篠原、その辺でやめとけよ、ニャタリーが嫌がってるだろ」

「でも・・・」

「なんかお前のせいで空気が重くなっちゃったなぁ」

「ごめん・・・」

「さて、これからどうするか」

そこでニャタリーが急に思い立ったように口を開いた。

「鉄平、今日から私の弟子になりなさい」

いきなりのニャタリーの発言に戸惑う鉄平。

「そんなこと急に言われても、まだゲンさんのことが・・・」

「いいから、なりなさい」

「でも・・・」

「あぁ、もう、イライラするわね、だったらなんのためにここへ
来たのよ」

「いや、その場の流れで仕方なく・・・」

「流れ?」

ニャタリーはキレ気味だ。

「流れだか何だか知らないけど、実際に足を動かして来たのは
あんたなんだから、それはあんたの責任でしょ」

「それは、そうだけど・・・」

「まさかこのまま『やっぱり弟子入りやめます』で済むとは
思ってないわよね?」

鉄平は助けを求めて寺田の方を見たが、寺田は知らん顔をしている。

「弟子入りせずに帰るって言うなら、この部屋のお金、
全額払ってもうらから」

「そ、そんな・・・」

「それが嫌なら弟子入りするしかないわね」

鉄平が寺田の方へ向かって叫ぶ。

「おい、寺田、どういうことだよ、こんなの聞いてないよ」

「そりゃ言ってないからね」

「お前、俺に恨みでもあるのか?」

「いやいや、そんなのはないって」

「ただね」

「ただなんだよ」

「俺にも色々事情があって、篠原の助けが必要なんだよ」

「助け?」

「そう、詳しいことは後でちゃんと説明するから、今は大人しく
ニャタリーの弟子になっておこうぜ、悪いようにはしないって」

「そんなの信用できるワケないだろ!」

「じゃあホテル代払うか?ニャタリー、ここっていくらだっけ?」

「一泊百万円」

「そんな金、無いに決まってるだろ」

「だったら選択肢は1つなんだから、何も迷うことはないでしょ」

「ホテル代はこっちでもつ、って先に言ってたじゃないか」

「そりゃ弟子入りすれば、っていう話だよ」

「仲間にならないヤツに百万円もつぎ込むバカはいないって」

「別にさぁ、篠原を追い込むためにこんなことをしてるワケじゃ
ないんだよ」

「ニャタリーに弟子入りすれば篠原も絶対稼げるようになるから、
取り合えず弟子入りだけしとこうぜ、なっ?」

それから鉄平は散々寺田に反論したが、鉄平の選択肢が増えることは
なかった。

 

気付いた頃には窓の外はもう真っ暗になっていた。

「じゃあこの紙にサインして」

鉄平の気力はもう尽きかけていたが、最後の力を振り絞って
なんとか差し出された契約書にサインした。

「うぃー、おめでおう!」

「これでやっと仲間になれたな」

鉄平は声を出す気にもなれない。

「詳しいことはまた明日話すから、今日は取り合えずこの部屋で
ゆっくり寝てくれ」

「あ、約束通り部屋代はニャタリーが払ってくれるからご心配なく」

鉄平は目で頷いた。

寺田との口論で鉄平は気付かなかったが、いつの間にか部屋から
ニャタリーはいなくなっていた。

喋る猫たちはみんな、サラッと姿を消すのが上手いらしい。

寺田が部屋を出たあと、ベッドの下に隠れたいたゲンさんが姿を現す。

鉄平のあとをつけていたゲンさんは、周りの隙を突いてベッドの下に
忍び込んでいたのだ。

さすがホンモノ、と言ったところだろうか。

「へんっ、怪しいと思ったらこういうことだったか」

「鉄平はもう寝ちまってるみたいだな」

「ニャタリーめ、しばらく見ない間にまた変なことを企みやがって」

「ま、俺に勝とうなんざ、百年はえーな」

そして眠っている鉄平に向かってゲンさんが話しかける。

「鉄平、心配すんな」

「そのうち俺がなんとかしてやるからな」

こうしてまた鉄平の新しい日々が始まるのだった。

つづく。

 

 

【第25号】猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(9)

No Comments

ども、杉野です。

いやー、筆が進むのはいいんですが、ニャポレオンの終わりが
まったく見えてきません(苦笑)

こんなことになるなら、最初からもっと色々伏線やら仕込んで
おけばよかったと、若干後悔しています。

そんなワケで、そのうち最初の1・2話辺りをリニューアルする
かもしれません(と言っても、話が変わらない程度に、ですが)。

もちろんそのときはちゃんとお知らせしますので、ご心配なく。

ではでは、本編をどうぞ。

 

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第25号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(9)

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・・・2ヶ月と11日目・・・

ゲンさんの喝でやる気を取り戻した鉄平は、この日の朝、レオン様に
もう一度リサーチの話を切り出した。

「あのさ、昨日話そうと思ってたことなんだけど」

「なんだ」

「リサーチの話」

「うむ」

「考えたこと、聞いてもらってもいい?」

「申してみよ」

「リサーチとは、相手のことをよく理解することであり、それと同時に
自分のことをよく理解することだと思う」

「理解するとは、コミュニケーションの文脈では、その人の立場を
想像することができる、もしくは客観的にその人を見ることができる、
みたいな意味」

「まとめると、リサーチっていうのは自分や相手を第三者的視点から
観察して、そこから何かその人の核となっているようなものを見つけて
いくことなんじゃないかな、って思ったんだけど、どう?」

「鉄平にしてはよく考えたではないか」

「へへっ、そう?」

鉄平は少し照れくさそうにしている。

「ところで、それはどうやってやるのだ?」

「それは・・・まだ考えられてないんだ」

「そうか、今まで私は何度も言っておるのだが、お前はそれに気付いて
おらぬようだな」

「え、そんなの一度も教わってないって」

「そう思うなら自分で考えればよい」

「そんなぁ・・・」

「その過程でまた一歩ホンモノに近づくのだから、よいではないか」

「そうかもしれないけどさぁ・・・レオン様ってなんか僕に遠回り
ばっかりさせてない?」

「なんだ、今ごろ気が付いたのか」

「じゃあ2ヶ月以上経っても何も進展しないのは、レオン様のせい
ってこと?」

「理屈上はそういうことになるな」

「暇つぶしは長く続くに越したことはない」

それを聞いて、鉄平の態度が急変した。

「なんだよそれ・・・なんなんだよ、昨日から・・・」

「そう落ち込むな、私も昔は師匠に」

「昔話なんてどうでもいいよっ!」

「どうした、怒っておるのか?」

「やれやれ、またお前は勘違いしておるようだな」

「その言葉は聞き飽きたよ」

「昨日だってそう言って、僕の気持ちも考えずに自分の言いたいことを
言ってただけじゃないか!」

「いいから聞かぬか」

「・・・もうこれ以上アンタの暇つぶしに付き合うつもりはないから」

「何を言い出す」

「止めても無駄だよ」

「昨日の時点で僕の心は決まってたんだ、アンタみたいなダラシナイ
猫じゃなくて、あの人(あの猫)についていこう、って」

「誰がダラシナイ猫だっ!」

「本当のことを言って何が悪いんだよ!」

鉄平の言葉に一瞬激情したレオン様だったが、次の瞬間には落ち着きを
取り戻し、冷静な声で鉄平に語りかけた。

「お前の言いたいことは分かった、ではこれからどうするのだ」

「そんなのアンタには関係ないだろ」

「それは私との約束を破るということか」

「そうだよ」

「こんなのやってられるワケないだろ」

しばらく沈黙が続いたあと、レオン様が口を開いた。

「・・・分かった」

「また私も暇になってしまうな」

鉄平は何も言わない。

「短い間だったが、それなりに楽しい暇つぶしになった」

「いい師に出会えるとよいな」

そう言い残して、レオン様は部屋を去っていった。

 

昼食後、鉄平は早速ゲンさんに会いに行った。

もちろん弟子にしてもらうためだ。

いつもの場所で何度か名前を呼んでみたが、ゲンさんは現れない。

「なんでこういう時に限って出てこないんだよぉ・・・」

実はゲンさんは近くにいたのだが、彼は鉄平の様子を察してあえて姿を
現さなかった。

あの表情、あの焦り具合、あの雰囲気、そして昨日の今日。

それらを勘案した結果、ゲンさんは会うべきでないと判断した。

鉄平はまったく気付いていなかったが、ゲンさんは鉄平が思っている
何十倍・何百倍も凄い実力者だったのだ。

ここで読者諸君には前にレオン様が言っていたことを思い出してほしい。

彼は鉄平にこんなことを言っていた。

「お前のような愚民には分からんだろうが、ホンモノの成功者ほど
実は裏でひっそり目立たずに世界を動かしているものなのだ」

これはそのままゲンさんに当てはまる。

忘れていないだろうか。

鉄平から見ればちょっと変わった粋で小太りな猫でしかないゲンさんも、
あのレオン様の師匠なのだということを。

ホンモノであればあるほど、自分のことを小さく見せようとする。

彼らは目立つことがリスクであることを理解しているがゆえに、
どこにでもいる平凡な猫(人間)を演じる。

そう思われている方が、何かと都合がいいのだ。

豪邸に住めば強盗に狙われ、年収を公にすれば多くの人に妬まれる。

顔が知れ渡ればプライバシーは侵害され、下手に賢いところを見せれば
相手に警戒されかねない。

だから彼らは「裏でひっそりと目立たずに」生きているのである。

ゲンさんがどの程度ホンモノなのかは、追々知ることになるだろう。

話を戻そう。

鉄平ががっかりしながらその場をウロウロしていると、突然、
彼の携帯電話が鳴った。

ピピピッ、ピピピッ(着信音)

「メールかぁ」

「え、寺田!?」

※久々の登場なのでお忘れかもしれないが、寺田は鉄平がかつて
勤めていた会社の同僚である。

「なんで寺田が急に???」

ピッ(メール確認)

そのメールにはこう書かれていた。

<うっす、久しぶり!ちょっと急なんだけど、今日の夜時間あるか?
もし暇だったら久々に飲まないか?あ、飲み代は俺のおごりで
いいからさ、その理由も含めて色々話したいことがあるんだよ、
よかったら連絡ちょうだい>

「なんなんだろ、急に」

「このタイミングでこのメールって・・・偶然とは思えないな」

「まあ今日はゲンさんもいないみたいだし、弟子入りは明日にして
久々に息抜きでもするかぁ」

<おう、行こう行こう!じゃあ6時半にいつもの居酒屋で!>

鉄平はそう返信した。

 

夕方、鉄平がいつもの居酒屋で待っていると、以前よりも随分と
派手な格好をした寺田が現れた。

「よっ!久しぶり!」

そう声をかけてきた寺田の顔は、気持ち悪いほど満面の笑みだった。

「お、おう」

鉄平は寺田の変わり様に少し動揺している。

「な、なんか変わったな」

「そうか?」

「派手になったっていうか、ギラギラしてるっていうか」

「まあ俺もいろいろあってね」

「何があったの?」

「そう焦りなさんなって」

「今日は全部俺がおごるから、ゆっくり話そうぜ」

ウエイターがやってくる。

「ご注文はお決まりですか?」

「あ、生中2つとタコワサ、あとサイコロステーキね」

「生中でよかったよな?」

「う、うん」

「オーダー入りまーす!生中2つと(以下略)」

「ところで篠原は最近どうしてたんだ?」

「最近かぁ・・・」

鉄平は少し迷ったが、レオン様のことを打ち明けることにした。

「前に話した猫の話、覚えてる?」

「まあ一応」

「ここだけの話なんだけど、これこれしかじか、ってことでその猫に
ホンモノになる方法を教わってたんだ」

「へー」

「あれ、前みたいに『寝ぼけるな』とか言わないの?」

「言わないねぇ」

寺田は不気味な笑みを浮かべている。

「なぜなら俺も今、猫にいろいろ教わってるからね」

「ええぇっ!!!!!!!!!」

鉄平はあまりの驚きに大声を出さずにはいられなかった。

「しぃーーーー!お前声デカイよ、周りが見てんじゃねーか」

「あ、う、うん、ご、ごめん」

「それって、どういうこと?」

「どういうことも何も言葉通りだよ」

「え、じゃあその猫の名前は?もしかして・・・レオン様?」

「はぁ?レオン様って誰?俺の師匠はニャタリーだよ」

「ニャタリー?」

「そう、正式な名前は忘れたけど、たしか、なんとかかんとか
ニャタリー・ヒルって名前だったと思う」

それを聞いて鉄平は少しほっとした。

「そ、そうか、なるほど」

「で、寺田はそのニャタリーに何を教わってるの?」

「そりゃー、この格好を見ればなんとなく分かるでしょ」

「・・・お金?」

「グッドラック!」

「グッドラック?」

「正解ってことだよ」

「それを言うなら、ザッツライト、だろ」

「まあ細かいことは気にしない」

「相変わらず言葉のチョイスが独特だな・・・まあいいや」

「そのニャタリーにお金の稼ぎ方を教えてもらったことで、
そんな格好ができるようになった、と」

「そういうこと?」

「イェス、ウィーキャン!」

「ウィーキャンは余計だって」

 

「それで、なんで僕にその話をしにきたの?」

「あ、そうだった、それを言わなきゃな」

「うん」

「いや、話は簡単なんだよ」

「お前もニャタリーに弟子入りしないか、ってことだ」

「僕が?」

「そう」

「そりゃ願ってもない話だけど、なんでそんなオイシイ話を
わざわざ僕に持ってきたのさ」

「そういうこと誘う相手だったらもっと他にたくさんいるだろ」

「お前さぁ、猫が喋るなんて、誰に言っても信じてもらえると思うか?」

「あぁ、なるほど、そういうことね」

「いくらお金があっても、周りから白い目で見られたら悲しいだろ」

「だから前に猫の話をしてたことを思い出して、お前にこの話を
振ったんだよ」

「そこは分かったけど、別にそのことを寺田一人で独り占めしておいても
よかったんじゃないの?」

「うっ、そ、それは・・・そうなんだけど」

「僕を誘わなきゃいけない理由でもあるの?」

「そ、そんな細かいことは、どうでもいいじゃん」

寺田の目が泳ぎ出した。

「だって、ほ、ほら、たった2ヶ月やそこらでこんなブランドの服とか
時計が買えるぐらいお金が手に入るんだぜ?」

「それのどこに断る理由があるんだよ」

「まあそうだけどさ、普通は気になるじゃん」

「逆だよ逆、普通は気にしないって」

「そうかなぁ」

「そうそう」

「でも・・・実は他に弟子入りしたい猫がいるんだよ」

「なんだよ、その猫って」

「ゲンさん」

「ゲンさん?なんだそりゃ、大工の棟梁かなんかか?」

「違うよ、ゲンさんは・・・あれ、ゲンさんって何者なんだっけ?」

「お前、何者か分からないヤツの弟子になるつもりなのか?」

「いや、ゲンさんは・・・」

「なんか知らないけどさ、そんな得体の知れないヤツの弟子になるより、
ちゃんと実績のあるニャタリーの弟子になった方が絶対いいって」

「うーん」

「よし、じゃあ明日俺がニャタリーに会わせてやるよ」

「え、いいよ、そんなの」

「遠慮すんなって、お前もニャタリーに直接会えば絶対に弟子入り
したくなるから」

「そうかなぁ・・・でも僕はゲンさんに・・・」

「じゃあ明日の昼1時半にホテルニャポレオン東京で待ち合わせな!」

「ホテル?」

「あんまり人目につくとマズイだろ」

「あぁ、そうか」

「金はこっちで持つから気にすんな」

「う、うん・・・いや、でも」

「そうと決まったらパーっと飲もうぜ!!」

 

結局、鉄平は寺田の誘いを断り切れず、ニャタリーに会うことに
なってしまった。

一方その頃レオン様は次の暇つぶし相手を既に見つけていたのだが、
それはまだ先の話。

鉄平はゲンさんの弟子になれるのか、それともこの流れのまま
寺田と共にニャタリーの弟子になってしまうのか。

鉄平の運命やいかに。

つづく。

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