ども、杉野です。

久々にニャポレオンを書きました。

次回からニャタリー編の本編って感じでしょうかね。

今回はその導入になっています。

レオン様の出番はしばらくお預けです(笑)

成功哲学はどこへ?って感じですが、物語の性質上、
すべての記事にその要素を入れるのは無理があります(苦笑)

そこはご了承くださいませ。

 

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第28号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(10)

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・・・2ヶ月と12日目・・・

「うーん、んんっ、あー・・・」

「ねみぃー・・・」

鉄平は自然と朝4時に目を覚ました。

「あー・・・んぁ?」

「あ、そういえば、もうこんな時間に起きなくてもいいんだった」

「でもこれだけ習慣になってると逆にやらない方が気持ち悪いん
だよなぁー・・・」

「さて、どうするか」

しばし悩む鉄平。

2分ほど悩んだあとに彼はあっさりと結論を出した。

「別に瞑想に罪はないんだし、これぐらいは続けておくか」

こうしていつものように瞑想を終えた鉄平はそそくさと朝食を済まし、
寺田との約束の前にもう一度ゲンさんに会いに行くことにした。

「今日はいるかなぁ・・・」

不安を抱えながら例の場所へ向かう。

辺りを見回すが、今日もゲンさんらしき猫は見当たらない。

と、そこに茶色い猫が鉄平の視界に入った。

「ゲンさんっ!」

「にゃー」

「なんだ、普通の猫か・・・」

「にゃーん」

「お前はいいよなー、気楽そうで」

「僕もお前みたいにのんびり暮らしたいよ」

そう言いながら近づくと、猫は駆け足で去って行ってしまった。

「はぁーあ・・・」

「おーい、ゲンさーん!ゲンさんってばー!いないのー?」

何度呼んでもやはりゲンさんは現れない。

このときもゲンさんは陰に隠れながらずっと鉄平の様子を窺っていた。

「どうしちまったんだ、アイツは」

「昨日と言い、今日と言い、この間と全然様子が違うじゃねーか」

「せっかく俺が喝を入れてやったのに、昨日から腑抜けた顔ばかり
してやがる」

「こいつぁ、何かあったに違いねぇ」

「とはいえ、ここで俺が表に出ていくと話がややこしくなりそうだ」

「もうしばらく様子を見て、状況を把握するべきだな」

ゲンさんは鉄平のことを放っておくことができなかった。

ブログの件からも分かるように、ゲンさんは天性の世話焼きなのだ。

それでいて義理と人情に厚いため、一度でも関わった人間のことは
放っておくことができない。

これが鉄平にとってこれ以上ないほど心強い味方となった。

そんな味方があとをつけて陰で見守ってくれていることなど
つゆ知らず、鉄平はゲンさんとの再会を諦め、寺田との約束の
場所へと向かうのだった。

 

・・・ホテルニャポレオン東京・・・

 

「うへぇー、表の入口が小さかったから普通のビジネスホテルかと
思ったけど、こんなにセレブなホテルだったのか・・・」

「この服装じゃ、場違いもいいところだな」

鉄平は一人で苦笑いしている。

「やけに猫の置物が多いのは、やっぱりあの名前に合わせてるん
だろうか」

「そういえば言われたときはその場の勢いで気付かなかったけど、
よくよく考えると嫌なことを思い出させる名前だよな・・・」

「まあ、もう関係ないからいいんだけど」

「篠原ー!」

「ん?」

鉄平が横を見ると、ロビーの豪華なソファーに座ってスーツに
身を包んだ寺田が手を振っていた。

「お、おう」

「待ってたぜ、じゃあ早速行こうか」

「うん」

部屋へ向かうエレベーターの中で鉄平が寺田に話しかける。

「ただ話をするだけなんだから、別にこんないいホテルじゃなくて
よかったのに」

「言ってなかったけど、これはニャタリーの指定なんだよ」

「え、そうなの?」

「そう」

「俺も話をするだけならもっと普通のホテルでいいと思ったんだけど、
ニャタリーがニャポレオン東京にしろってうるさくてさ」

「ふーん」

「お、着いた」

ドアが開くと、そこは部屋の入口になっていた。

「な、なんじゃこりゃ!」

「うおぉ、すげー!」

「寺田はニャタリーと一緒に来たんじゃないの?」

「いや、俺もこの部屋には今初めて来たんだよ」

鉄平たちの目の前には、リビングへと繋がるドアがある。

「よし、じゃあ入るか」

「う、うん」

寺田がそっとドアを開けると、一枚ガラスの巨大なパノラマの窓が
彼らを出迎えた。

「ひゃー!!」

2人は言葉にならない言葉を口にする。

と、次の瞬間、彼らの視界の下の方から声が聞こえた。

「おーほっほっほっ、2人とも興奮してるみたいね」

寺田が声をあげる。

「ニャタリー!」

ニャタリーはリビングの大きな絨毯の上に座っていた。

「待ちくたびれたわよ」

「え、さっき来たばっかりでしょ」

「おだまり!」

「へいへい、いっつもその調子なんだから」

寺田が鉄平の方を向く。

「あ、そうそう、こちらが偉大なる俺の師匠、ニャタリー嬢です」

「ニャタリーよ、よろしく」

「あなたのことは亮太から聞いてるわ」

「あ、亮太は俺の下の名前だから」

「篠原鉄平です、よろしくお願いします」

「いきなりだけど、鉄平って呼ばせてもらうわ、私のことは
『世界一美しくて優しくて賢いニャタリー様』と呼びなさい」

「え、あ・・・」

鉄平は声が出ない。

「冗談に決まってるでしょ、ニャタリーでいいわよ」

「それと敬語はなし、堅苦しいのは嫌いなの」

「はい・・・いや、うん」

「そう硬くなんなってぇ」

寺田が鉄平の背中をたたく。

「うへっ・・・」

「興奮してるところ悪いんだけど、早速本題に入りましょうか」

「本題って?」

「弟子入りのことに決まってんだろ、何寝ぼけてんだよ」

「あのー、そのことなんだけどさ」

「どうした」

「やっぱり気が進まないんだよね・・・」

「なんでだよ、まだゲンさんってヤツのこと考えてんのか?」

「うん・・・」

「ゲンさんって?」

ニャタリーが何かを察した様子で寺田に尋ねる。

「いや、ニャタリーの他に弟子入りしたい猫がいるらしいんだけどさ、
そいつの名前がゲンさんって言うんだよ」

「俺はそんなヤツやめとけって言ったんだけど」

「それってもしかして・・・茶色い猫のこと?」

「え、ニャタリーはゲンさんのこと知ってるの!?」

「し、知らないわよ、あんな猫のこと・・・」

突然ニャタリーの顔色が曇る。

「ねぇ、何か知ってるの?ゲンさんって何者なの?凄い猫なんでしょ?
知ってるなら教えてよ!」

「・・・(イライラ)」

「ニャタリーとゲンさんはどういう関係なの?さっき知ってる
ようなこと言ったじゃない」

「だから知らないって言ってるでしょっ!!これ以上その名前を
出したらひっかくわよっ!!」

ニャタリーはヒステリー気味にそう叫んだ。

「おい、篠原、その辺でやめとけよ、ニャタリーが嫌がってるだろ」

「でも・・・」

「なんかお前のせいで空気が重くなっちゃったなぁ」

「ごめん・・・」

「さて、これからどうするか」

そこでニャタリーが急に思い立ったように口を開いた。

「鉄平、今日から私の弟子になりなさい」

いきなりのニャタリーの発言に戸惑う鉄平。

「そんなこと急に言われても、まだゲンさんのことが・・・」

「いいから、なりなさい」

「でも・・・」

「あぁ、もう、イライラするわね、だったらなんのためにここへ
来たのよ」

「いや、その場の流れで仕方なく・・・」

「流れ?」

ニャタリーはキレ気味だ。

「流れだか何だか知らないけど、実際に足を動かして来たのは
あんたなんだから、それはあんたの責任でしょ」

「それは、そうだけど・・・」

「まさかこのまま『やっぱり弟子入りやめます』で済むとは
思ってないわよね?」

鉄平は助けを求めて寺田の方を見たが、寺田は知らん顔をしている。

「弟子入りせずに帰るって言うなら、この部屋のお金、
全額払ってもうらから」

「そ、そんな・・・」

「それが嫌なら弟子入りするしかないわね」

鉄平が寺田の方へ向かって叫ぶ。

「おい、寺田、どういうことだよ、こんなの聞いてないよ」

「そりゃ言ってないからね」

「お前、俺に恨みでもあるのか?」

「いやいや、そんなのはないって」

「ただね」

「ただなんだよ」

「俺にも色々事情があって、篠原の助けが必要なんだよ」

「助け?」

「そう、詳しいことは後でちゃんと説明するから、今は大人しく
ニャタリーの弟子になっておこうぜ、悪いようにはしないって」

「そんなの信用できるワケないだろ!」

「じゃあホテル代払うか?ニャタリー、ここっていくらだっけ?」

「一泊百万円」

「そんな金、無いに決まってるだろ」

「だったら選択肢は1つなんだから、何も迷うことはないでしょ」

「ホテル代はこっちでもつ、って先に言ってたじゃないか」

「そりゃ弟子入りすれば、っていう話だよ」

「仲間にならないヤツに百万円もつぎ込むバカはいないって」

「別にさぁ、篠原を追い込むためにこんなことをしてるワケじゃ
ないんだよ」

「ニャタリーに弟子入りすれば篠原も絶対稼げるようになるから、
取り合えず弟子入りだけしとこうぜ、なっ?」

それから鉄平は散々寺田に反論したが、鉄平の選択肢が増えることは
なかった。

 

気付いた頃には窓の外はもう真っ暗になっていた。

「じゃあこの紙にサインして」

鉄平の気力はもう尽きかけていたが、最後の力を振り絞って
なんとか差し出された契約書にサインした。

「うぃー、おめでおう!」

「これでやっと仲間になれたな」

鉄平は声を出す気にもなれない。

「詳しいことはまた明日話すから、今日は取り合えずこの部屋で
ゆっくり寝てくれ」

「あ、約束通り部屋代はニャタリーが払ってくれるからご心配なく」

鉄平は目で頷いた。

寺田との口論で鉄平は気付かなかったが、いつの間にか部屋から
ニャタリーはいなくなっていた。

喋る猫たちはみんな、サラッと姿を消すのが上手いらしい。

寺田が部屋を出たあと、ベッドの下に隠れたいたゲンさんが姿を現す。

鉄平のあとをつけていたゲンさんは、周りの隙を突いてベッドの下に
忍び込んでいたのだ。

さすがホンモノ、と言ったところだろうか。

「へんっ、怪しいと思ったらこういうことだったか」

「鉄平はもう寝ちまってるみたいだな」

「ニャタリーめ、しばらく見ない間にまた変なことを企みやがって」

「ま、俺に勝とうなんざ、百年はえーな」

そして眠っている鉄平に向かってゲンさんが話しかける。

「鉄平、心配すんな」

「そのうち俺がなんとかしてやるからな」

こうしてまた鉄平の新しい日々が始まるのだった。

つづく。