ども、杉野です。

最近『ガラスの仮面』という少女マンガを読んでいます。

紫のバラの人、もどかしいです(笑)

いや、そんな話はどうでもいいんですけど、このマンガは極めて
成功哲学的な内容になっていて、僕が1号と2号で話した要素が
まんべんなく散りばめられています。

特に「逃げ道をなくす」という点については徹底されている。

月影先生が厳しいのなんのって(笑)

今話題の体罰問題も、きっとこういう時代の価値観を引き継いで
しまった故の悲劇なのでしょう。

ご参考まで。

 

そうそう。

『ガラスの仮面』に触発されて面白いアイデアが浮かんだので、
僕もライトノベルっぽいものを書いてみることにしました。

ま、気楽に読んでくださいな。

 

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第3号 猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密(1)

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プルルルル、プルルルル。

ガチャッ。

「はい、株式会社メイクベターページです」

「あ、こちら中小企業向けのレーザープリンタを販売しております
プリプリ商事の佐藤と申しますが、社長様おられますでしょうか?」

「えーと、プリプリ商事の佐藤さん、ですね?」

「はい、そうです」

「少々お待ちください」

ピッ。

♪~♪~♪~♪~♪~♪~

「社長、プリプリ商事の佐藤さんという方からお電話です」

「はぁ?」

「いや、だから、プリプリ商事の」

「プリプリだかフリフリだか知らんが、そんな奴は知らん」

「でも、社長に代わってほしいって・・・」

「んなもん、ただの営業に決まってんだろうが、さっさと切れ」

「あ、はぁ」

ピッ。

「あのー、うちは今プリンターは必要ないみたいなので」

「いやいや、そうじゃないんですよ」

「通常のレーザープリンターのトナー代って大体どれぐらいか
知ってますか?」

「知らないですけど・・・」

「普通のプリンターだと1枚の印刷辺り大体0.3円ぐらいの
コストがかかるんです」

「へー」

「おたくの会社では1日に何枚ぐらい印刷されますか?」

「えっと、まあ少なく見積もって300枚ぐら」

ガチャ。

プー、プー、プー。

「あれ?」

「おい」

「ん?」

「ん?じゃねーよ」

「いつまで営業の電話に付き合ってんだよ」

「いや、その、相手が話を続けてきたんで、つい」

「お前さぁ、何回言われたら分かるワケ?」

「前も同じような営業の電話を取り次いで、社長に怒られてただろ」

「あれはまた別の話で」

「別じゃねーっつってんの!」

「篠原よぉ、お前、入社して何年経つよ?」

「2年ぐらい・・・です・・・けど・・・」

「2年やっててまだこんなこと言われてるなんて恥ずかしくないの?」

「・・・すみません」

「いや、すみませんじゃなくて、恥ずかしくないのかって」

「・・・すみません」

「はぁーあ・・・どうしようもねーな、お前」

「たのむから、もっとしっかりしてくれよ」

「はい・・・」

 

「おーい、篠原君」

「は、はいっ!」

「先日頼んでた例の案件のデバッグ、やってくれた?」

「えっ!?あのー、そのー・・・」

「もしかして、やってないの?」

「いえ、少しはやったんですが、途中でホームページの修正依頼が
入ってきて・・・」

「やってないんでしょ?」

「はいぃ・・・」

「なんでいっつも、そうやって言い訳するの?」

「やってないなら素直にやってないって言って謝りなさいよ」

「仕事サボった上に言い訳するなんて、有り得ないんだけど」

「いや、サボっては・・・」

「それが言い訳だって言ってんの」

「さっきも佐々木先輩に怒られてたみたいだけど、まずはその態度を
なんとかしたら?」

「仕事ができるできない以前に人として問題があるよ、篠原君は」

「!?(グサッ)」

「ちょっとは同期の寺田君を見習ったら?」

 

・・・帰宅途中の会話・・・

 

「元気出せって、篠原」

「人として問題があるなんて言われたら凹むに決まってるだろ」

「いや、そうだろうけどさぁ、凹んでても何も始まらないじゃん」

「分かってるよ、それぐらい」

「分かってるならくよくよするなよ」

「寺田は優秀だからバカな俺の気持ちが分からないんだよ」

「いやいや、別に優秀じゃないし、ってか俺もバカだし」

「それはお前の基準だろ?」

「俺の基準では寺田は優秀なんだよ」

「いや、そうかもしれないけどさ、俺だって一応裏ではそれなりに
努力してんだぜ?」

「だろうな」

「人の努力を、だろうな、で片づけるな!」

「ちょっとは興味持てよ」

「せっかく優秀(?)な俺がアドバイスしてやろうってのに」

「お前と俺は違うんだから、アドバイスなんてもらっても、
どうせ役に立たないよ」

「んなもん、聞いてみなきゃ分かんないだろ」

「じゃあ寺田は何やってるんだよ」

「へっへーん、これだよ、これ」

寺田がカバンの中から1冊の本を取り出す。

「じゃーん」

「・・・ナポレオン・ヘル?」

「毎日寝る前にこれを読んでる」

「なんか地獄の番人みたいな名前だな」

「まあ小さいことは気にすんな」

「で、どういう効果があったの?」

「そんなもん俺の会社での働きを見てれば分かるだろ」

「いや、だから、具体的に何がどう変わったのか聞いてんだよ」

「そんなの知らねぇよ」

「これを読んでると、なんか、こう、ふぁ~っとした気分に
なれるんだよ」

「いい言葉もいっぱい載ってるしな」

「ふーん」

「いかにも興味ありそうだな」

「どこが」

「ツンデレなのかと思って」

「言葉の使い方間違えてるだろ、それ」

「まあ何でもいいから、お前も読んでみろって、人生変わるから」

「うーん、あんまり気はのらないけど、帰ったらナマゾンで探して
みるよ」

「おう、ナマゾンなら中古で100円ぐらいで買えると思う」

「じゃあな」

 

・・・部屋に帰宅・・・

 

「ふぅー」

「せっかく寺田が勧めてくれたことだし、一応調べるだけ調べて
みるかぁ」

「ナマゾン、ナマゾンっと」

カチカチッ(ダブルクリック)。

「そういや俺、本なんて数えるほどしか買ったことなかったなぁ」

「えーっと、ナポレオン・ヘルだったよな、たしか」

カチカチッ。

「お、あった」

「意外と人気なんだなー、レビューが100個以上もついてる」

「しかも星4つ以上がほとんどかぁ」

「まあ確かに悪い本じゃなさそうだな」

「あれ?この下の欄に表示されてるのは何なんだろ?」

「えーと・・・

『猫が教える成功哲学 ニャポレオン・ヒルの秘密』

って何だこれ?」

「ナポレオン・ヘルに続いては、ニャポレオン・ヒルってか?」

「読者をなめてるなー、この業界」

「なんでも猫にすりゃいいってもんじゃねーぞ」

「でも気になる・・・なぜか気になる・・・猫好きな俺・・・」

「我慢できない」

カチカチッ。

「お、概要が載ってる」

この本では、あなたが「やりたいこと」を見つけ「やりたいこと」を
実現するために、猫のニャポレオン・ヒルが全力であなたを応援します。

「応援って」

「方法とか教えてくれないのかよ」

「あ、まだ何か書いてある」

なお、ニャポレオン・ヒルの機嫌次第では、その方法を教えることも
やぶさかではありません。

「ずいぶん偉そうだな、この本」

「ってか本の機嫌をとるとか意味わかんねーし」

「値段は中古で1円、残り1冊」

「いかにもクソ本って感じだな」

「でもなんかナポレオン・ヘルより、こっちが気になるなぁ、
猫好きの俺としては」

「仮にクソ本だったとしても1円なら損しても問題ないし、
ナポレオン・ヘルはまた今度にして、とりあえずこれを買ってみるか」

カチッ。

カチカチッ。

「よし、購入完了」

「明日は土曜日だけど、今日はやたら怒られて疲れたし、もう寝よう」

ピッ(消灯)。

 

・・・翌日・・・

 

ピンポーン。

「宅配便でーす」

「はぁーあ」(あくび)

「はーい、ちょっと待ってくださいねー」

「ハンコ、ハンコっと」

ガチャ。

「はい、これがお届け物です」

「お名前、間違いありませんね?」

「あ、はい、篠原鉄平で間違いありません」

「じゃあここにハンコ押してもらえますか?」

ペタッ。

「はい、それでは、またよろしくお願いします」

「ご苦労さまです」

ガチャン。

「ふぅー、朝早くからホントにご苦労なことで」

「しかしなんだろうな、これ」

「また母ちゃんからの仕送りかな?」

「にしてはちょっと小さい気もするけど」

「まあいいや、とりあえず開けてみるべ」

ガサゴソ、ガサゴソ。

「おぉ、ニャポレオン・ヒル!!!」

「って、届くの早くねーか?」

「いや、まあ、早いに越したことはないんだけど、それにしても
速達で送ってくるとは、なんて律義な販売者なんだ」

「あとで5つ星の評価つけとかないと」

「じゃあ早速開いてみましょうかねぇ」

パッ。

「ん?」

「あれ?」

「なんで全部のページが白紙???」

「にゃー」

「おっかしいなぁ、どのページにも一文字も書いてないぞ」

「ごろにゃー」

「うわぁ、詐欺られたかなぁ・・・」

「にゃーと言っておるのが聞こえぬのか!」

「えっ!?」

「後ろだ、うしろ」

「うわぁ!!!!!!」

「よっ」

「な、なんで猫が!?しかも喋ってる!?」

「応援しにきてやったぞ、ニャポレオン・ヒル様が」

「いや、あのー、えぇ!?」

「えぇ!?じゃない」

「ちゃんと本の概要に書いてあっただろうが」

「読んでないのか」

「いやいやいや、読んだけどさぁ、そんな猫が出てくるなんて一言も
書いてなかったじゃん」

「お前、もしかして日本語も読めないのか?」

「私が出てこないで、どうやってお前を応援できるというのだ」

「いや、そうだけどさぁ・・・・」

「まあ細かいことは気にするな」

「これから私がお前を全力で応援してやるから、大船に乗った
つもりでいろ」

「乗れねーよ」

「ちなみに聞くけど、応援ってなに?」

「私が、がんばれー、と言うだけだ」

「はぁ!?」

「いや、だから、がんばれーと私が応援してやると言っているのだ」

「私に応援してもらえるなんて光栄だと思えよ」

「なんか色々突っ込むところが多過ぎるんだけど、話を整理しても
いいかなぁ?」

「ゆるす」

「まず、あなたは誰?」

「ニャポレオン・ヒル様だ」

「正確にはアンチョビーノ・ゴロニャントス・ペディグリー・
フリスキー・カルカン・ニャポレオン・ヒル13世と言う」

「普段は親しみを込めてレオン様と呼んでくれればいい」

「なんか餌っぽい名前が混ざりまくってるな」

「じゃあその・・・レオン様はどこから来たの?」

「魔界、なーんつってな」

・・・シーン・・・

「何を遠慮しておる、笑ってもいいのだぞ、ほら、遠慮せず笑え」

「あはははははは(棒読み)」

「よしよし、素直でよろしい」

「私の国は、お前のような愚民には想像もつかないぐらい遠いところに
ある」

「愚民いうな」

「あぁ、言い方が悪かったな」

「私の国は、お前のようなクズには想像も」

「もういい」

「なんで出身地を聞いてるだけなのに、けなされなきゃいけないんだよ」

「私が何か変なことを言ったか?」

「だからもういいってば」

「そうか」

「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな」

「名乗ることを許してやる、名乗ってみよ」

「そりゃどうも」

「俺は篠原鉄平だ」

「私はお前のことを何と呼べばいい?シノラーか?」

「なんであんたがそんな古いネタ知ってんだよ」

「鉄平でいいよ、鉄平で」

「ほぉ、では鉄平、お前はなぜ私を呼んだ?」

「いや、なんでって言われてもなぁ」

「もしかしてお前は理由もなく私を呼んだのか」

「あの本は興味本位で買っただけだし・・・」

「なんと無礼な!!!」

「私がニャポレオン・ヒル様だと知っての行為か!」

「あんたが勝手に出てきただけでしょーが」

「あぁ、言われてみればそうだったな」

「まあその無礼は許してやる、私もちょうど暇をしていたのだ」

もふもふ。

「おい、何をしておる」

「何って、もふもふしてんだよ」

「だから、なぜもふもふしておるのだ」

「気持ちいいからに決まってんじゃん」

「そうか、それなら仕方あるまいな」

もふもふ、もふもふ。

「ところで、鉄平」

「ん?」

「腹が減ったぞ」

「はぁ?」

「だから腹が減ったと言っておるのだ」

「なに、お前のような貧乏人の家で贅沢は言わぬ」

「マタタビで我慢してやろう」

「んなもん、一人暮らしの男の部屋にあるワケねーだろ」

「ってか貧乏で悪かったな」

「なんと、最近の貧乏人の家にはマタタビもないのか」

「ある方が珍しいよ」

「うーん、あわれなことだ」

「仕方がない、今はとりあえず牛乳で我慢してやる」

「さすがに牛乳ぐらいはあるだろ、ほら、はやく差し出せ」

「はいはい、分かったよ、差し出せばいいんでしょ、差し出せば」

「もう突っ込む気もうせたよ」

ガタッ。(冷蔵庫をあける)

ごそごそ。

バタン。

「はい、牛乳」

「あ、ちょっと待って、お皿にうつすから」

「うむ」

「はい」

ペロペロ。

「ん、これはもしや、低脂肪牛乳ではないか?」

「そうだけど、何か問題でも?」

「いや、まあ仕方あるまい、貧乏人の家ではこれが精一杯だろう」

「はいはい、悪るぅございましたなぁ、貧乏人で」

ペロペロ。

「腹が膨れた、もう皿はさげてよいぞ」

「へいへい」

 

「さて、これからどうしようかのぉ」

「お、そうだ、まずは鉄平のことをもっと知らねばなるまいな」

「俺のこと?」

「そうだ」

「私の暇つぶしは、人の夢を叶えることだからな」

「ずいぶんスケールのでかい暇つぶしだな」

「悪いか?」

「いや、悪くはないけど、それって本当なの?」

「本当も何も、世の知られざる成功者のほとんどは私の暇つぶしによって
大成しておる」

「知られざる成功者?」

「そう、ホンモノたるもの、世の脚光を浴び、世間の愚民から支持されて
いるようではならんのだ」

「ホンモノは愚民ではなく、本人と同じようなホンモノに支持され
なければならない」

「ほぉ」

「お前のような愚民には分からんだろうが、ホンモノの成功者ほど
実は裏でひっそり目立たずに世界を動かしているものなのだ」

「もちろん、全員が、とは言わんがな」

「一言余計だけど、なんとなく言ってることは正しい気がする」

「ただし、私の暇つぶしには条件がある」

「条件?」

「まずは相手が何よりも優先して、やりたいことをやると誓うこと」

「それは逆に言えば、やりたくないことを極力やらないと誓う
ということだ」

「例えば?」

「会社に行くのが憂鬱なら、会社に行かないこと」

「それじゃ暮らしていけないじゃん」

「そんなことは私は知らぬ、とにかくこれが条件の1つだ」

「他にも条件はあるが、現段階ではこれだけ守ると誓ってくれれば、
ホンモノになる方法をお前に教えよう」

「なるほどね、言いたいことは分かった」

「では聞こう」

「お前はホンモノになりたいか?」

「いやいや、いきなりそんなこと聞かれても・・・」

「では、なりたくないのか?」

「そうじゃなくて、今すぐには決められないって言ってるんだよ」

「じゃあ10分後ならどうだ?」

「10分もちょっと・・・」

「10分でもダメなのか、どうしようもないクズだな、お前は」

「そんなに暴言はくなよぉ、ただでさえ会社でも怒られてばっかり
なのに、休日にまで凹まされるなんて、たまんないよ」

「だったらなんでお前はそんな人生を変えてやろうと思わないのだ」

「私にはそっちの方が不思議だぞ」

「お前がホンモノになりさえすれば、凹むようなことはなくなる
ではないか」

「そりゃそうだけど・・・こっちにはこっちの事情があるんだよ」

「事情とはなんだ?」

「いろいろだよ」

「そのいろいろとはなんだと聞いておる」

「あぁ、もう、俺のことなんてほっといてくれよ」

「そうか」

「せっかく腹が膨れて機嫌がよかったのだが、気が変わった」

「もうお前のことなど知らぬ、勝手にしろ」

「あぁ、勝手にするさ」

そう言って、鉄平が少し視線を外した瞬間にレオン様は姿を消した。

「なんなんだよ、アイツ」

 

・・・その日の夜・・・

 

むしゃくしゃした鉄平は同僚の寺田を誘って飲みに行くことにした。

「でさぁ・・・っていうワケなんだよ」

「お前なに寝ぼけたこと言ってんの?」

「あ、そうか、昨日あんまり怒られたもんだから、ちょっと精神的に
おかしくなったんだろ」

「ちがうよ、今の話は本当なんだって」

「本から猫が出てくるワケないし、ましてや猫が日本語をしゃべったり
するはずねーじゃん」

「お前だって冷静になれば分かるだろ、それぐらい」

「そりゃ俺だって信じたくないさ、そんなこと」

「でも本当なんだから仕方ないじゃないか」

「はいはい、分かった分かった」

「今日はとことん付き合ってやるから、今の話はぜんぶ忘れろ」

「あ、それとついでに俺のナポレオン・ヘルも貸してやるよ」

「アンチョビだかナポリタンだか知らないけど、そういう変な本を
買うから、痛い目に遭うんだって」

「うーん・・・」

「真面目に努力しようぜ、篠原」

「結局それが一番の近道なんだよ」

「・・・そうだな」

「ところで篠原」

「ん?」

「お前、うちの会社のウワサって知ってるか?」

「なんのウワサ?」

「いや、俺も詳しくは知らないんだけどさ、どうやら結構経営が
ヤバイらしいんだよ」

「え、マジで!?」

「なんかうちの社長がデカイ企業のホームページで商品の金額を
間違えて表記しちゃったらしくてさ、とんでもない損失を出したとか
なんとか」

「それってめちゃくちゃヤバイじゃん」

「なんでそんなヤバイ情報が社内で共有されてないの?」

「やっぱそう思うよな?」

「おもうおもう」

「だから余計にヤバイんじゃないかと思うワケよ」

「失敗を次に活かせ、ってのが社長の口癖だったのに、その社長が
自らその理念を裏切るなんて、おかし過ぎると思わないか?」

「おかしいよ、それ」

「俺、もしかしたら、社長が何も言えなくなるレベルですでに会社が
ダメなんじゃないかと思って」

「まずいなぁ・・・」

「まあ俺たちが今ここで何を考えても仕方ないんだけどな」

「ただ、一応覚悟はしておいた方がいいと思うぜ」

「また就活やんのかー、やだなー」

その日、鉄平は寺田と朝まで飲み明かし、帰ってくるなり倒れこむ
ようにして眠った。

 

・・・次の日(日曜日)・・・

 

「おい」

「うーん、むにゃむにゃ・・・」

「おい」

「もう飲めないってばぁ・・・」

「起きろ、鉄平」

「あん?」

「私は腹が減った、何か差し出せ」

「えぇ!?なんでいるの?」

「誰が帰ると言った」

「私は、お前のことなど知らぬ、と言っただけで帰るとは一言も言って
おらんぞ」

「はぁ・・・」

「ほら、そんなことはいいから、早く牛乳を差し出せ」

「昨夜はお前がいなかったから、晩飯抜きになってしまったではないか」

「まあ、お陰で少しスリムになった気はするが」

「なってねーよ」

「そうか」

「っていうか、帰ってないならどこ行ってたんだよ」

「いや、まあ、私にもいろいろあるのだ、お前と一緒でな」

「それよりも」

「それよりも?」

「はやく牛乳を」

「はいはい、分かったってば」

ガチャッ。

「はいよ」

ペロペロ。

「むっ、今日も低脂肪ではないか」

「当たり前だろ、今のが無くなってもないのに買い替えられるかよ」

「うーむ・・・」

「この牛乳が無くなったら少しいいヤツに変えてやるから、それまで
我慢してくれ」

「貧乏人はあわれよのぉ」

「まだ言うか」

ペロペロ。

「よし、さげてよいぞ」

「文句言うわりには、いつも綺麗に食うよな」

「育ちが良いのでな、残すことはマナー違反だと教えられて育った」

「なるほど」

 

「でだ」

「気持ちは変わったか?」

「ちょっとだけね」

「ほう、どうしてだ?」

「昨日の夜、うちの同僚から会社がヤバイって話を聞いてさぁ」

「なるほどな」

「それで少し危機感が生まれた、ということか」

「ただ、まだ実際には潰れてないし、探せば他にも就職口はあるから」

「あまいぞ」

「えっ?」

「お前は、わざわいは重なる、ということを知らんのか?」

「悪いことというのは、大体連鎖して起こるようになっておるのだ」

「そ、そんなの、ただの人生訓だろ」

「それが甘いと言っておる」

「この場合、実際にそのわざわいが起こるかどうかは重要ではない」

「それが起こることを前提に日々を生きていれば、何が起こっても
動じることがない、ということをそういった言葉は伝えておるのだ」

「こんなこと、お前は考えたこともなかろう」

「うーん・・・」

「それは別に悪いことではない」

「ただ、これだけは自覚しておけ」

「お前はお前の知らないところで、お前がホンモノになっていれば
救えたであろう人たちを、今この瞬間にも見捨てているのだ」

「例えばもう亡くなったが、マイケル・ジャクソンという男がおるな」

「うん」

「彼は類まれな才能の持ち主で、おそらく尋常ではない努力をつんで
あの地位に上りつめたのだと思う」

「彼の影響力は強大で、世界中のファンが彼のパフォーマンスに熱狂し、
心奪われ、そして感動した」

「もし仮に、彼が一切の努力を放棄し、たんなる凡人として一生を
おくっていたとしたら、そのファンたちはどうなっていたと思う?」

「また別のアーティストのファンになっていた、とか?」

「まあそれも間違いではあるまい」

「しかし、何よりも重要なのは、彼が生み出すはずだった感動を
何億人というファンが受け取れない、ということだ」

「彼のライブもなければ、彼のCDも発売されない」

「それがどれだけの人にとって不幸なことであるか、想像してみろ」

「想像はできるけど、それと俺のことと何の関係があるんだよ」

「鈍いヤツだな」

「お前は凡人のマイケル・ジャクソンと同じだと言っておるのだ」

「生み出せるはずの感動を生み出さず、救えるはずだった人を
救わずに、のうのうと生きている、無責任な人間なのだ、お前は」

「お前がどこまでホンモノになれるのかは私にも分からない」

「分からないが、少なくとも必死で努力すれば10人や100人
ぐらいは感動させられる、救える人間になることは間違いない」

「それぐらいの人間になら、努力すれば誰だってなれる」

「逆に言えば、努力しなければそれだけの人間を見捨てることになる、
ということだ」

「だからお前はホンモノにならなければならない」

「分かったか?」

「いや、言いたいことは分かったけど、俺みたいな人間に誰かを
救うなんてできるワケないし、そんな重い責任は背負えないよ」

「何をとぼけたことを言っておる」

「えっ?」

「その責任は、お前の意志に関係なく、もう背負っておるのだ」

「それはお前に限らず、私も、他の人間も同じ」

「お前は人間じゃないだろ」

「そうだったな」

「しかし、今はそんなことはどうでもいい」

「とにかく、お前は、人間は、ホンモノになるしか道はないのだ」

「・・・ちょっと聞いてもいいか?」

「なんだ」

「レオン様は、俺がホンモノになれると思う?」

「思うとか思わないとか以前に、興味がない」

「へ?」

「言ったろうが、これは私の暇つぶしだと」

「お前がどうなろうが、そんなことは私の知ったことではない」

「暇つぶしの目的はただ1つ、私にとってそれが楽しいかどうか、
それだけだ」

「ほぇ」

「お前はゲームをするときに、いちいちクリア出来るかどうかなんて
考えるのか?」

「どれだけ楽しそうなゲームでも、クリアできなさそうなゲームには
手を出さないのか?」

「私はそんな奴は見たことがないぞ」

「まあ言われてみれば確かにそうだな」

「私はそれが面白そうだからやるだけだ」

「それ以上でもそれ以下でもない」

「で、鉄平、どうするのだ、やるのか、それともやらぬのか」

「いろいろ事情はのみこめたけど、やっぱりまだ決められないよ」

「んんー、もどかしいヤツめ」

「では、どうすれば決められる?」

「私はもう暇で暇で死にそうなのだ」

「もう少しだけ、時間をくれないか?」

「どれくらいだ」

「3ヶ月!・・・いや、1ヶ月でいい、それだけ時間がほしい」

「・・・そんなには待てない、と言いたいところだが、今のところ
次の予約も入っておらんようだから、待ってやることにしよう」

「ありがとう!」

「ところで予約ってなに?」

「余計なことは気にするな」

「う、うん・・・」

「それでは一旦、私は消えさせてもらう」

「また1ヶ月後、決意が固まったら本に向かって私の名前を呼ぶがいい」

「むろん、1ヶ月より早く決意が固まれば、そのタイミングで呼んで
くれても構わない」

「私は暇をしておるのでな」

「うん、分かった」

「では、またな」

「あ、ちょっと待って」

「なんだ」

もふもふ、もふもふ。

「はい、もう大丈夫」

「そうか」

「また会おう」

彼はそう言うと、窓から飛び出していった。

 

・・・次の日(月曜日)の会社・・・

 

社員全員がそろったところで、突然、社長が大きな声を出した。

「みんなに大事な話がある」

つづく。

 

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ありがとうございました。

杉野

 

追伸1:前回のクイズについて。

引き続き、前回のクイズの回答をお待ちしております。

ちなみに今こちらに届いている回答は1通のみです。

念のために言っておきますが、僕が求めているのはあくまでも
「回答」であって「正解」ではありません。

あの手の問題は「答えること」に意味があります。

その点だけ、お間違いのないように。

 

追伸2:ブログ。

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復習したい場合はいつでも見に来てくださいませ。

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